そして、竜司くんはというと……

案の定聞いていなかった。

後ろに群がる人々に向かって、圧をかけている。


「お前ら……朝からうるっせーんだよ!なんで俺が逃げなきゃならねぇんだよ、失せろ。ストーキングするならもっと静かにやれ!」


えぇ……???

竜司くんも…怒りの沸点そこなんだ…。

ていうかストーキングは許すんだ…。

双竜会総長に凄まれ、一人、また一人と人が減っていく。

数分後には、人は綺麗さっぱりいなくなっていた。

みんな「静かなストーキング」に切り替えたのだろうか。

ふぅ、とため息をついた竜司くんが、満足気に振り返る。


「ありがとよ、瑠衣。おかげで解決したわ。これメロンパン代な。」


うーん…私の視力が悪くなければの話だけど、今竜司くんが瑠衣に渡したのは現金ではなく、ケーキ屋のサービス券な気がする。

バイトしている私だから見分けられるけど、あれは竜司くんのケーキ屋のケーキが一個無料でもらえる券だ。


「ん…。」


瑠衣はそれを受け取ってポケットに入れた。

……え?ちょっとちょっと、妥協しちゃうの?ねぇ、それでいいの?

ツッコミたくなる衝動を抑える。

いけないいけない。こんなところでノリツッコミしたら、私が学校に毎日通っていることすら奇跡なのに、それこそ明日から学校に来れない。