「僕は1年前、そうだ、16の時、竜司さんに助けられた。」


突如始まる自伝。

この男が何を考えているのか読めず、困惑する。


「親父は御神楽会とか言う暴力団だかなんだかしらないけど変な組織に取り込まれちまった。民宿も放置して毎日怯えて暮らすようになり、なぜか貯金が不自然に減っていった。」


えぇ…?

なんでその話を私にするの。承認欲求?

分からない…。


「親父は民宿を捨て、僕を連れて都会の変なアパートに引っ越した。今思えばそのアパートも御神楽会のものだったんだろうな。僕は親父が毎日酒に溺れるのが見ていられなくて、無性にイラついて、毎日繁華街に通った。最近有名な、イカれた若者たちが集まる繁華街にさ。」


取り憑かれたように喋るこの人の意図が掴めなくて怖い。

それより、話し方と話している内容と一人称がそれぞれ微妙にズレていて気持ち悪い。


「で、僕、薬中になったんだよねぇ。薬なしじゃ生きていけなくなっちまったんだよ。僕もイカれちゃってね。」


笑いながら喋る彼が私の顔に手を伸ばす。


「分かるんだよ、僕と同じように狂った人が。あんたもそうなんでしょ?そんな可愛い顔で澄ましちゃってるけどさ、ほら、目の奥を見れば分かるんだよ、あんたも壊れているんでしょ?僕と同じでしょ?」


頬を伝う、男の冷たい指から逃れるために首を振った。

この人、きちんと修理ができていない。

壊れたところは補強しなきゃいけないのに、できていない。

壊れたところから、血が溢れ出ているままだ。


「ねぇねぇねぇ、久しぶりに見つけたんだぁ、僕と同じ人。嬉しいなぁ。これは運命の糸ってやつじゃない?」


一度離れた手がまた近づいてくる。