バン!と勢いよくドアが開き、会議室に瞬が飛び込んでくる。

「大輔?!どうしたんだ、まだ仕事にこなくても…」

そう声をかける須賀を無視して、会議室の前方に大きく歩を進めた。

「事件の真相は?」
「だからそれは、容疑者死亡で…」
「そっちじゃない。社長の殺人事件の方だ」
「…は?」

会議室にいた面々は、戸惑ったように顔を見合わせる。

「被害者の素性と犯行現場の状況、分かっていること全て教えてくれ」
「は、はい」

部下に当たる男性が返事をして資料を瞬に差し出す。

「被害者は津田 (いさお)68歳。不動産業界トップの津田不動産の代表取締役社長です。犯行があったのは先週の火曜日、死亡推定時刻は午前7時30分頃。住み込みの家政婦が起こしに行き、ベッドで亡くなっている被害者を発見しました。死因は鋭利な刃物で胸を刺されたことによる失血死。遺留品など犯人の特定に繋がるものはなく、目撃者もいません。ただ防犯カメラには、7時半前後に被害者の寝室の窓から出入りする黒いマスクとマント姿の人物が映っていました」
「それがどうかしたのか?」

黙ったままの瞬に須賀が声をかけた。

「この事件、もう一度洗い出す。行くぞ、勇作」
「え、ちょっと、待てよ!」

瞬は須賀を連れて車で津田の屋敷に向かう。

大きな屋敷の周りをぐるりとチェックすると、わずかに首を傾げた。

「どうした?」
「ああ。防犯カメラの位置が分かりやすい。こうもあからさまに設置してあると、誰でも気づく」
「そうだな。抑止力目当てでわざとそうしているんだろう」
「おかしいと思わないか?犯行は朝だ。夜ならともかく、明るい朝なら防犯カメラがあることは犯人だって気づいていたはず。わざとカメラに映ろうとしたとしか思えない」
「ええ?何の為に?」
「同一犯だと思わせる為にだ」

ハッと須賀が息を呑む。

「まさか、犯人は別にいるのか?社長を殺害して容疑者Bとして次の犯行予告文を残した犯人は、死亡した誘拐犯とは別だと?」
「ああ、そうだ」
「ちょ、待てよ大輔。なんだってそんな発想に?」

詰め寄る須賀に、瞬はゆっくりと口を開いた。

「楓が俺に手紙を残していた。この事件を示唆するような手紙をな」
「なに?!」
「いいか、勇作。これから話すことは絶対に誰にも言うなよ」
「…どうして?」
「警察内部に犯人の息がかかった人間がいる」

須賀は言葉を失って大きく息を呑んだ。