事件は、容疑者死亡として幕を下ろすことになる。
真相は藪の中、そんな雰囲気のままその後の調査や処理が行われていた。

マントにつけていたらしい爆弾によって身体が粉々に吹き飛んだ犯人は、身元の特定に時間がかかっていた。

健悟が入院中に沙奈の葬儀が行われ、自宅のマンションで瞬は呆然と時間の流れに身を任せていた。

3人の明るい笑顔が溢れていたこの部屋に、もう二度と幸せはやってこない。

絶望の中で生きる気力も失いかけた瞬は、ふと棚に並んでいるアルバムに目をやった。

手に取ってめくってみる。

そこには生まれたばかりの健悟を胸に抱いて微笑む沙奈の姿があった。

ミルクを飲ませながら優しく見つめている写真、視線を合わせ、二人で微笑み合っている写真、添い寝しながら愛おしそうに頭をなでている写真…。

愛情たっぶりに子育てしている優しい母の姿が詰まったアルバム。

「楓…」

瞬の目から、とめどなく涙がこぼれ落ちた。

「こんなにも愛情深く大樹を育ててくれていたんだな。俺達の大切な大樹を…」

肩を震わせていた瞬は、やがて大きく息を吸うと決意を固める。

「これからは君の分まで俺がしっかり大樹を守る。約束するよ、楓」

写真の中の笑顔の沙奈にそう告げると、頷いてアルバムを閉じようとした。
その瞬間、何かがアルバムの間から滑り落ちる。

なんだろう、封筒か?と拾い上げた瞬は、ハッと目を見開いた。

そこに書かれていた文字は…

『あなたへ 私になにかあった時はこれを読んでください 楓』