なんだかんだで朝食の準備を無事終えて、家族揃って席に着く。

「お母様、起きてこれたのね。」
麻里子に良く似た笑顔の女性が最後に、女中に支えられながら食堂に入って来た。

莉子にとってはこれが司の母との初対面だ。
病床に顔を出すのも失礼だろうと、先に手紙だけを麻里子に頼んで渡してもらっていた。

だから莉子はこの場に居て、果たして許されるのかと、少し緊張しながら席に座る義母となる人を見つめていた。

「貴方が莉子さんね。
初めまして、司の母です。いつもお話しは麻里子から聞いているわ。お手紙をどうもありがとう。」
ふんわり笑う雰囲気が優しい女性だった。

莉子な肩の力を抜いて立ち上がり、丁寧に挨拶をする。
「初めまして。森山莉子と申します、よろしくお願い致します。」

「こちらこそ。麻里子も前より随分歩けるようになったし、元の元気さを取り戻させてくれたのは、莉子さんのお陰よ。ありがとう。

司は、無愛想で分かり難いところがあるけど、決して怖い人間ではないから理解してちょうだいね。」

莉子の不安とはよそに、母として女性に興味を持たない司の嫁探しには頭を抱えていたから、やっと肩の荷が下りたと密かに喜んでいた。

「大丈夫です、とても良くして頂いております。」
莉子がふわりと笑う。

「素敵なお嬢さんで良かったわ。」

「これで、長谷川家は安泰だな。
さぁ、今朝は莉子さんと麻里子2人だけで作ってくれたそうだ。みんなで食べよう。」

当主の父の声で、皆一斉に箸を取り手を合わせる。

司は、莉子達はただの手伝いをしていただけかと思っていたから、少し驚き隣に座る莉子にチラリと目線を送る。

「俺のだし巻き卵、絶対麻里子が作っただろう。」

少し焼き色が黒く焦げた、だし巻き卵を持ち上げて学が言う。

司はしばらく料理を眺め、莉子の手料理なんだと人知れず噛みしめていた。