次の朝、
莉子がいつもの時間に目を覚ますと外はまだ暗く、一瞬反射的に飛び起きる。

誰よりも早く起きて朝食の準備をしなければと、思考が東雲家での毎日で未だ支配されている。

バッと立ち上がり、辺りを見渡すと現実世界に引き戻され、ホッと力が抜けてパタンと布団の上にしゃがみ込む。

ふかふかの布団に温かな毛布…
ああ、夢の続きはまだ続いている。

莉子は安堵して、フーッと深い息を一つ吐く。

いつだって不確かな幸せは、砂山のように水に流されて簡単に壊されてしまう…。それが自然の原理であって逆らう事なんて誰も出来ない。

莉子の人生だってきっと簡単に流されてしまう。

この雨も、あとひと月したら冷たい雪にと変わるだろう。その頃にはもう跡形も無く消えてしまう運命なのかもしれない。

そう思いながらおもむろに立ち上がり、麻里子から借りた着物に腕を通す。