そこでやっと司は気付く。
傷を見られるのが嫌なのだと言う事に…
「俺は莉子が目を覚まさない時からずっと傷を見ている。気にしなくていい。
それにこの傷は俺のせいなのだから…少しぐらい罪滅ぼしをさせてくれ。」
少し強引に手縫いを取り上げ手当を始める。
軟膏を塗り、ガーゼをそっと丁寧に貼る。
莉子は怖くてみてられないと、ぎゅっと目をつぶっていた。
「前日に比べたら綺麗になっているから心配するな。じきに元通りに戻る。」
今度は額の前髪をそっと避け、額の傷口を綿棒に付けた薬でそっと繊細に塗っていく。
まるでいたわる様なその仕草に、勇気を出してそっと目を開け鏡越しに司を覗き見る。
息がかかるほどの近さで、真剣な眼差しで傷口に薬を塗っている。
痛いとか…恥ずかしいとか…そんな子供じみた感情で、彼に背を向けてしまった事を申し訳なく感じるほど、司は真剣だった。
その眼差しは、自分がしでかしてしまった事に決して目を背けず、反省と償いを込めてその傷と向き合っているようだった。
それには当の本人である莉子さえも、気にしなくていいと、その重荷を下ろして欲しいと思うほどで…
「ありがとうございます。
…司様はお医者様になれますね。」
気の利いた褒め言葉も、まして重荷を下ろさせる方法も思い付かず…莉子はそう声をかける事しか出来なかった。
「それは…褒められているのか?それとも、けなされているのか?」
莉子の心意が分から無い司は真顔でそう答える。
「褒めております。とても丁寧なので…。」
子供じみた褒め言葉だったと急に恥ずかしくなって、莉子はまた俯いてしまう。
「莉子が医者になれと言うなら、医者になろう。」
司がフッと笑ってそう言うから、本当に冗談なのか本気なのか分からない。
「…言葉のあやです。本気にしないで下さい。
司様は立派な跡継ぎではないですか。」
「君が望むなら何にだってなる。それに、なんだって買ってやる。欲しい物とか何かないのか?」
「欲しいものなんて…何もありません。」
元より、物欲なんてあまりなかった莉子だから、特に思い付くものはない。
司がこたつの方に莉子を勧めてくれるから、手当てのお礼を込めて、温かいお茶を司の為に注ぎ机に差し出す。
それを司はありがとうと言って、一口飲む。
「明日、東雲家に行って正式に婚約を伝えて来ようと思う。何か東雲の者に事付けがあるならば、手紙を書いて欲しい。」
そんなに早く⁉︎
思いがけない言葉を聞いて、莉子は動揺してしまう。
東雲の叔父は何て言うだろうか…
華族である事を鼻にかけるような、司がもっとも苦手だろうタイプだ。
それに東雲家は憎き敵の筈、1人で乗り込ませる訳にはいかないと莉子は心配する。
「私も、一緒に参ります。」
それなのに、司は首を横に振る。
「いや、莉子は行かない方が良い。大丈夫、心配しなくても穏便に話しを勧めるから。」
莉子を安心させるように、司は軽く微笑む。
「…莉子は俺と結婚して身分を捨てる事になるが本当に構わないか?」
「それは……構いませんが…。」
とっくにそんな優雅な暮らしとは程遠いから…華族である事に何の意味も持たない。
「ゆくゆくは俺の妻になる事も?」
「…司様もそれで本当によろしいのですか?」
司はお茶をぐっと全部飲み干す。
「俺は、君しかいないと思っている。
では…手紙が書けたら明日俺に渡してくれ。」
そう言って、たくさんの封筒やら便箋やらが入った箱を置いて、司は部屋を出て行った。
傷を見られるのが嫌なのだと言う事に…
「俺は莉子が目を覚まさない時からずっと傷を見ている。気にしなくていい。
それにこの傷は俺のせいなのだから…少しぐらい罪滅ぼしをさせてくれ。」
少し強引に手縫いを取り上げ手当を始める。
軟膏を塗り、ガーゼをそっと丁寧に貼る。
莉子は怖くてみてられないと、ぎゅっと目をつぶっていた。
「前日に比べたら綺麗になっているから心配するな。じきに元通りに戻る。」
今度は額の前髪をそっと避け、額の傷口を綿棒に付けた薬でそっと繊細に塗っていく。
まるでいたわる様なその仕草に、勇気を出してそっと目を開け鏡越しに司を覗き見る。
息がかかるほどの近さで、真剣な眼差しで傷口に薬を塗っている。
痛いとか…恥ずかしいとか…そんな子供じみた感情で、彼に背を向けてしまった事を申し訳なく感じるほど、司は真剣だった。
その眼差しは、自分がしでかしてしまった事に決して目を背けず、反省と償いを込めてその傷と向き合っているようだった。
それには当の本人である莉子さえも、気にしなくていいと、その重荷を下ろして欲しいと思うほどで…
「ありがとうございます。
…司様はお医者様になれますね。」
気の利いた褒め言葉も、まして重荷を下ろさせる方法も思い付かず…莉子はそう声をかける事しか出来なかった。
「それは…褒められているのか?それとも、けなされているのか?」
莉子の心意が分から無い司は真顔でそう答える。
「褒めております。とても丁寧なので…。」
子供じみた褒め言葉だったと急に恥ずかしくなって、莉子はまた俯いてしまう。
「莉子が医者になれと言うなら、医者になろう。」
司がフッと笑ってそう言うから、本当に冗談なのか本気なのか分からない。
「…言葉のあやです。本気にしないで下さい。
司様は立派な跡継ぎではないですか。」
「君が望むなら何にだってなる。それに、なんだって買ってやる。欲しい物とか何かないのか?」
「欲しいものなんて…何もありません。」
元より、物欲なんてあまりなかった莉子だから、特に思い付くものはない。
司がこたつの方に莉子を勧めてくれるから、手当てのお礼を込めて、温かいお茶を司の為に注ぎ机に差し出す。
それを司はありがとうと言って、一口飲む。
「明日、東雲家に行って正式に婚約を伝えて来ようと思う。何か東雲の者に事付けがあるならば、手紙を書いて欲しい。」
そんなに早く⁉︎
思いがけない言葉を聞いて、莉子は動揺してしまう。
東雲の叔父は何て言うだろうか…
華族である事を鼻にかけるような、司がもっとも苦手だろうタイプだ。
それに東雲家は憎き敵の筈、1人で乗り込ませる訳にはいかないと莉子は心配する。
「私も、一緒に参ります。」
それなのに、司は首を横に振る。
「いや、莉子は行かない方が良い。大丈夫、心配しなくても穏便に話しを勧めるから。」
莉子を安心させるように、司は軽く微笑む。
「…莉子は俺と結婚して身分を捨てる事になるが本当に構わないか?」
「それは……構いませんが…。」
とっくにそんな優雅な暮らしとは程遠いから…華族である事に何の意味も持たない。
「ゆくゆくは俺の妻になる事も?」
「…司様もそれで本当によろしいのですか?」
司はお茶をぐっと全部飲み干す。
「俺は、君しかいないと思っている。
では…手紙が書けたら明日俺に渡してくれ。」
そう言って、たくさんの封筒やら便箋やらが入った箱を置いて、司は部屋を出て行った。