充分に温まって至福の時間を過ごした莉子は部屋に戻る。

すると、火鉢に木炭が入れられ部屋は温められていた。おまけに布団が敷かれ、暖かいお茶まで用意されている。まるで、旅館に泊まっているような待遇に莉子は驚く。

こんな至れり尽くせり慣れてはいけないわ。
今は特別なんだから…
思わず自分を戒め心を引き締める。

お茶を飲みながら莉子は兄妹の事に思いを馳せる。

学生の頃、司が兄に会っていたなんて全く知らなかったから、その頃もしも剣道をやっていたら会えたのかなと、少し残念に思ってしまう。

きっと、剣道姿もお似合いで素敵だったに違いないと思わず考えてしまい、1人で赤面してドギマギと心が乱れてしまう。

私ったら何を考えてるの、不謹慎だわ。
何をドキドキしているのかしら…
名ばかりの婚約者なんだから、彼にとっては誰だって良かったのよ。

莉子はそう思って気持ちを冷静にしようと試みる。

気持ちを落ち付けるため、顔の傷の手当をしようと、鏡台に向かって初めて自分の顔を見る。

額には倒れた時に切ったのだろうと思われる切り傷と、青タンが痛々しい色をしてまだ残っている。
頬は…腫れは幾分、引いてきた気がするけれど赤みがまだ取れていない。

元々色白の肌だから、やたらと赤が浮いて醜い姿に映る。莉子の気持ちは、風船がシュンとしぼんでしまったかのように落ち込む。

こんな顔じゃお嫁になんていけっこないわ…。

例え、司が問題無いと言ったって、世間様が許す訳が無いと莉子の心はズキズキ痛む。