こんなに温かいお風呂は久しぶり…。

手足が伸ばせるほどの広い檜風呂で、沸いたお湯を流し入れる仕組みになっていてまるで温泉のようだった。

「お湯加減いかがですか?」
外から湯炊き番の女中が声をかけてくる。外は雨が降っていて、寒いのに申し訳ない…と莉子は思う。

「丁度良いお湯加減です。…もう大丈夫ですので、お部屋に戻って下さい。」

冬も夏も彼女は湯炊きをするのだろうか?
そう思うと、莉子の胸がチクッ痛む。
出来ればその仕事を代わってあげたいとまで思ってしまう。

「いいえ。大丈夫ですよ、お気になさらず。焚き火に当たっているので案外暖かいんです。」
女中はそう言って笑う。

「冬も夏も湯炊き番をされるのですか?」

「いいえ、この仕事は当番制になっております。毎日交代で回ってくるので、そんなに負担ではありません。それにお手当も付くので、悪くないんですよ。」

「そうなんですね。…安心しました。」
莉子はそっと胸を撫で下ろす。

この家ではそれなりに大変な仕事には、それなりの対価が与えられている。それが本来の働く形なんだと、莉子は今始めて実感する。

私が東雲家で働いて来た6年間は一体なんだったのだろう…スズメの涙ほどのお給金で、何か欲しいものを買う事も出来なかった。

「良い所ですね。」
莉子が女中にそう言う。

「はい、以前も他のお屋敷で働いておりましたが、そことは比べものにならないほどのお給金を頂いています。旦那様もお優しい方ですし、働き甲斐がありますよ。」

莉子が羨ましいと思うほど、彼女達は毎日ニコニコと楽しそうに働いていた。それは…上に立つ者や主人の人柄がそうさせる。

東雲家と比べたら天と地ほどの違いだと、莉子は思った。

もしも…司様に捨てられたらここで雇ってもらおうかしら…。と、可笑しな方向にまで考えが及ぶ。