司は莉子の隣の席に座り直して、莉子が食べ終わるのを待つ体勢だ。

「あの…花街はそんなにも危ない、場所なんでしょうか…?」
不安に駆られた莉子が、再度司に問う。

「…今…莉子が知る必要はない。
俺も鈴木に頼んで直ぐに妹さんを探させる。
見つけたら、どんな手を使ってでも妹さんを連れ出してみせるから安心しろ。」

司はそれだけ言って、莉子の頭をヨシヨシと撫ぜる。
これ以上聞くなと言われているみたいだ…。

そう言う事に無知な莉子は、花街がどんな所か知らないままで…ただ、亜子の無事を祈るばかり…。

結局、莉子は夕飯を7割ほど食べて部屋に戻った。

妹の亜子の事が心配で仕方なくなる。

楽しく暮らしているんだとばかり思っていた…
兄も分かっていて…優しい嘘をついていたんだと思うと、自分の無知さ加減に腹が立つ。

亜子が辛い思いをしてないといいけれど…

部屋まで送って行く道中、司が沈んでしまった莉子の心を心配する。そして何か気休めになるような事は無いかと思案する。

別れ際、司は莉子に提案する。

「莉子、兄妹に手紙を書いてみないか?」

司は躊躇いがちに聞いてみる。

「手紙…ですか?
…でも…私…2人の居る場所をよく知りません…住所が分からないんです。」

心配そうに司を見つめてくるから、燻っていた庇護欲が溢れ出してくる。莉子が抱えている全ての不安から、今直ぐに解消してあげたい。

「住所が分からなくても問題ない。幾つかの手掛かりがあれば充分だ。運転手の鈴木は人探しに長けている。きっと絶対見つけ出して、直接手紙を渡す事が出来るから心配するな。」

司は鈴木の事を信頼している。本当なら、自分自身で探したいとこだが…。

「分かりました…手紙を書きます。鈴木さんにはよろしくお伝えして頂けますか?」

「ああ、後で紙を持って来るから、風呂でも入って身体を温めてくれ。」
司はそう言って足速に去っていった。