気が付けば司達も食べ終わっていて、莉子の食事を待ってくれているようだ。

莉子は既にお腹が一杯なのに、残す事が申し訳なくて言い出せず、食事の前にあんぱんを食べてしまった事に後悔しながら、ちょっとずつ胃に流し込んでいる状態だった。

「莉子さん、母がね。莉子さんの事を話したら、自分から是非会いたいって言ったの。こんなに嬉しそうなお母様は久しぶりよ。きっと、直ぐに元気になるわ。」
何より麻里子がとても嬉しそうだ。

「それは良かったです。私も是非ご挨拶させてください。」
莉子が微笑みを浮かべながらそう言うから、ここにいる誰もがハッと息を飲み見惚れてしまう。

彼女の笑顔は誰もを魅了する。

「莉子ちゃん、兄妹は他にもいるの?」

学はいつの間にか、莉子の空いている側の隣の席に座っていた。

机に肩肘を付きながら、莉子の事をじっと見てくる。
なんだか距離感が近くて莉子は緊張してしまう。

「妹が1人おりますが…花街に売られて行きました。
兄が一度様子を見に行ったようですが、私は生き別れてから一度も会っていません。」

「花街…今、いくつ?」
ふいに学の顔が険しくなる。

「今は…14歳です。舞や琴が好きだったので丁度良いと、ご飯も沢山食べられると喜んで行ったのですが…。」
目の前の司が腕を組み空を見上げたから、莉子は急に不安になる。

「…そうなんだ、ギリギリだな…。妹さんの名前は?」
質問する学の顔も曇りがちだ。

「亜子と申します。…花街とは…どんな場所なのですか?」
莉子は学にそっと聞いてみる。

「莉子ちゃんは何で聞いてるの?」
逆に学から質問される。

「あの…お酒の席で舞や琴を弾いたりして、楽しく過ごす場所だと…兄から聞いたのですが…。」

「…確かにそういう場でもあるけど…。」
学が言葉を濁して、先をなかなか話し出さない。

「学、早く宿題でもやりに行け。」
いつの間にか隣りまで来ていた司が、不意に学の首根っこを掴んで立たせ、シッシッと手で追いやる。

司からはこれ以上喋るなと、無言の圧を感じた。

「莉子ちゃん、俺も花街に行って妹さん探してくるね。店の名とか分かるかな?」
麻里子は何も言わず、ただ学を非難の目で見ている。

「学、もういいからこれ以上喋るな。」

「本当よ。学兄様、なんてデリカシーが無いのかしら。」
麻里子と司から非難の目を向けられて、学は少したじろぎながら、

「だっていつか分かる事だよ?
それだったら早めに教えてあげた方が彼女のためだろ?」

「もう、いいから!」
麻里子がよいしょっと不自由な足を庇いながら立ち上がり、

「ごめんね。莉子さんゆっくり食べて。学兄様、私を部屋まで連れて行って下さいな。」
と、学を連れて食堂を後にした。