家に着く頃には辺りは真っ暗になっていて、自宅の灯りだけが浮かび上がっていた。

そこに彼女が居ると思うだけで、心が何だか暖かくなるから不思議なものだ。

「あの後、琴乃さんからいろいろな話しを伺い、市役所で森山家に着いて調べてきました。」

鈴木が今更そんな事を言い出す。
もう敷地内で駐車場も直ぐそばだ。

「それを早く言ってくれ。」

いろいろ聞きたかったのにと、ため息を吐きバックミラー越しに鈴木を睨む。

「琴乃さんと莉子様の思い出話しはおいおい話しますね。」
鈴木は何故かもったいぶる様にそう言ってくる。

「それよりも役所で分かった事ですが、森山家と東雲家は遠い親戚に当たりまして、莉子様は12歳で養子として東雲家に入っております。
戸籍を見る事が出来ませんでしたがそれは確かです。
ですから、彼女の扶養者は東雲当主であり、向こうからもし行方不明届けが出されると困った事になります。」

「今の所は出されて無いと言う事か?」
莉子がこの家に来て4日が経った。

1週間を目処に何か対策を投じなければ、強制的に家に帰されてしまう恐れもあるという事だ。

どうにかして、莉子と東雲家の縁を切らなければと頭を悩ませる。

「彼女を東雲家に戻す訳にはいかない。向こうが動き出す前に何が対策を投じなければ…。」

駐車場に車が停まっても降りる事が出来ず、何が良い案はないかと思案する。

そして一つの方法を思いつく。

俺にとっては彼女を手に入れるまたとない機会だが…それは彼女にとって、幸せな選択なのか分からない…。

そして、鈴木も既にその結論に達しているだろうと推測する。

「…大切なのは彼女の意思だ。
強制的に従わす訳にはいかない。そんな事をしたら東雲の奴らと同じじゃないか…。」
堪らずそう気持ちを露とすると、

「若が莉子様の気持ちの全てを、受け止められる存在になればよろしいんじゃないでしょうか?」

鈴木のにこやかな笑顔の向こうに、俺の手腕が試されている様な空気を感じる。

「そう簡単にはいかない…なにせ俺は彼女に手をあげた男だ。東雲家と同じ恐るべき存在なんだ。
そんな俺に彼女を守る資格は無い…。」

「ですが、その手で守りたいのではないのですか?
彼女はまだまだ蕾の花です。これからもっと綺麗に咲き誇るでしょう。誰か知らない輩に奪われるもしれませんよ?その時貴方は耐えられますか?」

鈴木の一問一答が胸に突き刺さる。

「お前が何を言いたいのか分かっている。」
俺はそれだけ伝え、車の外に出る。