早朝に出勤する司は、いつも1人早めの朝食を食べる。食堂に行くと直ぐに女中が1人分の朝食を用意して運んで来てくれるのが常だ。
しかし、今日は少し違っていた。
莉子が女中と一緒に朝食を運んで来たのに気付く。
「何をしている？」
先程、本人にも千代にも女中のような真似はしなくていいと伝えた筈だと、司は怪訝な顔を莉子に向ける。
「あの…千代さんから司様の身の回りのお手伝いをと、言いつかったのですが…。」
なぜか莉子も戸惑っているようだ。
「ああ、だが…女中のような事はしなくていいと言った筈だが。」
「あの…ご一緒に朝食を食べるようにと…千代さんから言われまして…。」
そう言う事か…司はやっと腑に落ちたようで、
「なるほど…それなら一緒に食べよう。」
日がな一日一人で食べる虚しさは分かる。
司は特に気にする事無く、日課の新聞を手に平常心だ。
莉子はそんな司を横目に、甲斐甲斐しく朝食を並べて、自分の分を女中から受け取り、戸惑いながらも向かいに座る。
「いただきます。」
司が手を合わせて食べ始めるのに従い、莉子も手を合わせ箸を持つ。
莉子にとって誰かと一緒に食べるのは、実家を離れて以来初めてだから緊張して、味どころでは無い。
こんな事、許されるのだろうか…。
私はなんせこの家から見たら憎き仇の家族なんだから…。莉子はその事を思い胸がチクリと痛むのを感じる。
「少しは食欲が出てきたか？」
食事を食べながら司が何気なく話しかけてくる。
莉子は慌てて箸を置き、口の中の物をごくんと胃に流し込む。
「…はい。あの…司様にはいろいろと珍しい物を差し入れて頂き、ありがとうございました。」
身を縮めて返事を返す。
「そんなに…かしこまらなくても良い。普通に食べろ。」
やたらと緊張している莉子をじっと見つめて言ってくる。
「い…いただきます。」
司から見られている視線が痛すぎて、先程よりももっと緊張してしまう。
それでも頑張って、莉子はちょっとずつ箸を運ぶ。その様子を少し手を止め見つめていた司も、また食べ始める。
「食が細いな。それではいつまで経っても健康にはなれない。三食以外に、10時と3時も必ず何が食べろ。
それにまだ病み上がりなんだから、あまり動き過ぎるなよ。」
不器用な優しさが見え隠れして、莉子はその度、脈が乱れてしまう。
「…はい。気を付けます。」
「後…麻里子がわがままを言うかもしれないが、駄目な事は駄目だとちゃんと躾けてやってくれ。」
司はそう言いながら、ところで彼女は何歳なんだろうか？と、ここに来て初めて思う。
分からない事が多すぎる。
莉子が来てから直ぐに、運転手の鈴木に莉子の身辺を調べさせたのだが、東雲家の女中や近隣に話しを聞いても、一向に彼女の事になるとみな口を閉ざす。
未だに名前すら分からないままだ。
ただ、女中にしては全ての所作が綺麗だと言う事。
こうして食事をしている姿を見るだけで、彼女の育ちの良さが垣間見える。
それなのになぜ、今まで東雲家で女中のように虐げられていたのか…。
手はカサカサに荒れていて、身体中はあざだらけ、食も細く栄養も足りていない。
はぁーと司はため息を落とし、彼女の今までを思い心を痛める。
「…あの…もし、私が目障りでしたら…。」
「目障りでは無い。明日からも毎朝一緒に食べるぞ。1人よりは少しは食も進むだろう。」
被せ気味に司にそう言われる。
莉子にとってはこんなに緊張する食事は今まで無かったから、毎日と言われ試練を与えられたようなものだ。
だけど、食べ終わってもなかなか席を立たない司の前で、残す訳にもいかず頑張って食べ切った。
「ご馳走様でした。」
2人手を合わせ席を立つ。
しかし、今日は少し違っていた。
莉子が女中と一緒に朝食を運んで来たのに気付く。
「何をしている？」
先程、本人にも千代にも女中のような真似はしなくていいと伝えた筈だと、司は怪訝な顔を莉子に向ける。
「あの…千代さんから司様の身の回りのお手伝いをと、言いつかったのですが…。」
なぜか莉子も戸惑っているようだ。
「ああ、だが…女中のような事はしなくていいと言った筈だが。」
「あの…ご一緒に朝食を食べるようにと…千代さんから言われまして…。」
そう言う事か…司はやっと腑に落ちたようで、
「なるほど…それなら一緒に食べよう。」
日がな一日一人で食べる虚しさは分かる。
司は特に気にする事無く、日課の新聞を手に平常心だ。
莉子はそんな司を横目に、甲斐甲斐しく朝食を並べて、自分の分を女中から受け取り、戸惑いながらも向かいに座る。
「いただきます。」
司が手を合わせて食べ始めるのに従い、莉子も手を合わせ箸を持つ。
莉子にとって誰かと一緒に食べるのは、実家を離れて以来初めてだから緊張して、味どころでは無い。
こんな事、許されるのだろうか…。
私はなんせこの家から見たら憎き仇の家族なんだから…。莉子はその事を思い胸がチクリと痛むのを感じる。
「少しは食欲が出てきたか？」
食事を食べながら司が何気なく話しかけてくる。
莉子は慌てて箸を置き、口の中の物をごくんと胃に流し込む。
「…はい。あの…司様にはいろいろと珍しい物を差し入れて頂き、ありがとうございました。」
身を縮めて返事を返す。
「そんなに…かしこまらなくても良い。普通に食べろ。」
やたらと緊張している莉子をじっと見つめて言ってくる。
「い…いただきます。」
司から見られている視線が痛すぎて、先程よりももっと緊張してしまう。
それでも頑張って、莉子はちょっとずつ箸を運ぶ。その様子を少し手を止め見つめていた司も、また食べ始める。
「食が細いな。それではいつまで経っても健康にはなれない。三食以外に、10時と3時も必ず何が食べろ。
それにまだ病み上がりなんだから、あまり動き過ぎるなよ。」
不器用な優しさが見え隠れして、莉子はその度、脈が乱れてしまう。
「…はい。気を付けます。」
「後…麻里子がわがままを言うかもしれないが、駄目な事は駄目だとちゃんと躾けてやってくれ。」
司はそう言いながら、ところで彼女は何歳なんだろうか？と、ここに来て初めて思う。
分からない事が多すぎる。
莉子が来てから直ぐに、運転手の鈴木に莉子の身辺を調べさせたのだが、東雲家の女中や近隣に話しを聞いても、一向に彼女の事になるとみな口を閉ざす。
未だに名前すら分からないままだ。
ただ、女中にしては全ての所作が綺麗だと言う事。
こうして食事をしている姿を見るだけで、彼女の育ちの良さが垣間見える。
それなのになぜ、今まで東雲家で女中のように虐げられていたのか…。
手はカサカサに荒れていて、身体中はあざだらけ、食も細く栄養も足りていない。
はぁーと司はため息を落とし、彼女の今までを思い心を痛める。
「…あの…もし、私が目障りでしたら…。」
「目障りでは無い。明日からも毎朝一緒に食べるぞ。1人よりは少しは食も進むだろう。」
被せ気味に司にそう言われる。
莉子にとってはこんなに緊張する食事は今まで無かったから、毎日と言われ試練を与えられたようなものだ。
だけど、食べ終わってもなかなか席を立たない司の前で、残す訳にもいかず頑張って食べ切った。
「ご馳走様でした。」
2人手を合わせ席を立つ。
