とりあえず、彼女がやりたいと思う事に対してさせてあげたいと思う。

早速千代を呼び出し、彼女に麻里子の手助けをお願いした事と、次また頭をぶつけたら命に関わる事を伝える。

そして、彼女があまり動き回って転んだりしないよう見守っていて欲しいと頼む。

「承知致しました。
ご本人にはいかがお伝えしましょう?」

「怖がらせてはいけないから、怪我の後遺症については彼女には何も伝えなくて良い。」

司は着ていた着流しを脱いで、白のワイシャツに着替えながらそう話す。

「司様、ついでに司様のお世話もして貰ってはいかがでしょう?」

千代は司の脱いだ着流しを片付けながら、ふと良い事を思い付いたとでも言いたげに笑顔を向けてくる。

「俺は世話など要らん。」
少しばかり子供扱いされた様で司は渋い顔をする。

「ああ、申し訳ありません。
言葉のあやを間違えました。今、この様にお洋服を畳んだり、お着替えを手伝ったりと私がしている様な事をです。

麻里子様のお世話だけではきっと、百合子様は物足りないと思いますよ。
今まで働いて来た者からしたら、何かしたいと思うのは自然な事です。それを不自然に止めるのはお可哀想です。」

それもそうだなと、司も思う。

彼女の事だ。
手持ち無沙汰になればまた、女中の様に働き出してしまうだろう。もしかしたら、この家を出て働きたいと言い出しかねない。

出来るだけ目の届く所に居てくれなければ困るのだ。

ネクタイを締めながら司はいろいろ思案する。

「そうだな…。千代さえ良ければ教えてやってくれ。」
司の答えに千代は喜び、ほくそ笑む。

「はい。それでは早速、百合子様にお伝えますね。」

「だが、あまり忙しくさせないでくれ。」
千代の歓喜を見ていささか心配になり、去り際振り返りそう伝える。