早朝、早く目が覚めた莉子は布団を畳んで、麻里子が貸してくれた着物に袖を通す。
こんな立派は着物はもったいないと思ってしまうほどで、汚さない様にと割烹着を借りた。

急いそと台所へ足を運ぶ。

「おはようございます。何かお手伝い出来る事はありますか?」
台所には2人の女中が朝食作りと慌ただしく働いていた。

「おはようございます。千代さんから聞いております百合子様ですね。麻里子様の花嫁修行のご指導をしてくれるとか、麻里子様にとっても良いお薬になると思いますのでどうぞよろしくお願いします。
私は女中頭の前澤です。」

優しそうな笑顔の恰幅の良い婦人が莉子に挨拶をしてくれた。

「おはようございます。本当に私でよろしいのでしょうか?こちらのお屋敷ではまた違いがあると思われますし、私にも指導をよろしくお願い致します。」
莉子は頭を下げる。

「大丈夫ですよ。皆それぞれ自己流でやっておりますから、それよりも麻里子様がまたやる気を出して頂けただけで、私達は嬉しいのです。

ところで、百合子様は昨日までお休みになっていたと聞いております。体調に不安を覚えた時はちゃんと休んで下さいね。」

体調を心配されながらも、身体を動かしたいと言う莉子の願いを聞き入れてくれた前澤さんに、玄関の掃除をお願いされる。

久しぶりの太陽を浴び、莉子は朝の新鮮な空気を胸いっぱい吸い込み、箒でハラハラと散る紅葉の落ち葉をかき集める。

いつの間にか秋になったんだなと、季節を久しぶりに感じる。

寝込んでいた間、のんびり出来たからだろうか…

母が亡くなってから霧がかかった様だった気持ちが、少しだけ晴れたような気持ちになる。

「おはようございます。」
車を磨いている運転手の方に声をかけられて挨拶を交わす。

「おはようございます。」

「お身体の方は大丈夫ですか?
私はこちらに来られる時に、声をかけさせて頂きました。運転手の鈴木と申します。」

「…その節はお世話になりました。」
 何て答えるべき分からない莉子が軽く頭を下げると、

「とんでも無いです。貴方の事を間違えて連れて来た張本人です。本当に申し訳ありませんでした。」
初老の鈴木が、深く頭を下げで謝ってくる。

「私が、嘘をついたのです。さんのせいではありません。」
慌てて否定をして首を横に振る。

「あの…失礼ながら貴方の事を調べるように若様から承っておりまして…貴方様は…。」
鈴木が話しを進めようとした所、遮る様に声が飛び込んでくる。

「何をしている⁉︎」
不意に手を掴まれて持っていた箒を奪われる。

えっ⁉︎と言う間に手を引かれ、玄関の中に連れ込まれる。

それは紛れもなく司で…
 
寝起きなのか見慣れない着流し姿だから、漏れ出る男の色気に当てられ、莉子の心臓が勝手にドキドキと騒ぎ出す。

「…お、おはようございます。」
莉子はドギマギしながらも挨拶をするので精一杯だった。