「昼はちゃんと食べていたか?」
布団の中に隠れてしまった莉子を横目に、司は仕方なく千代に問う。

「朝昼はお粥をお茶碗半分ほど…後はバナナを半分と…白湯は何度かお飲みになりましたが…お口の中の傷に響くようでまだ食欲も無さそうです。」

「それだけか…?」
司はハァーとため息を吐き、

「時間関係無く起きてる時は出来るだけ何か食べさせてくれ。これでは怪我を治す前に栄養失調で倒れてしまう。」

生きる気力も失っている彼女の事だ。食べなければそのうち死ねるだろうとでも思っているのだろうか。

見捨てる事なんて到底できない。
彼女には生きる気力も取り戻して、心身ともに健康になって欲しいと願っている。

先程チラリと垣間見た彼女の笑顔が頭から離れない。

あの笑顔をもう一度取り戻して欲しい。

「分かりました。千代が責任を持ってお世話させて頂きますので、ご安心して下さいませ。」

「よろしく頼む。」
司はそう言って立ち上がり、また仕事へと足を向ける。だけど、離れ難い気持ちが増す。

「何か食べたい物とかあったら教えて欲しいんだが…。」

もう一度ちゃんと顔が見たいと莉子に話しかけてみる。莉子も無視する訳にもいかずちょこんと顔を出した。

「バナナで充分でございます…。
お気を使って頂きありがとうございます。…お気を付けて行ってらっしゃいませ。」

司は顔が見れた事に安堵し莉子の頭を優しく撫ぜ、
「養生してくれ。」
と、一言言って部屋から出て行った。

異性との接触に慣れない莉子は、今のは何だったの…?と呆然となっていた。