「…こんな風に手厚く看病していただくのも本当に心苦しいのです…。」

「気にしなくていいんです。
だって、貴方の怪我はお兄様のせいなんだから、貴方は堂々と怪我が治るまで居てくれなきゃ駄目なんです。」

力強くそう言われる。

「それに私、貴方とぜひ仲良くなりたいんです。
学校では貴族や公家出身者が多くて、うちみたいな庶民は成金ってバカにされるんです。
もう、頭に来る事ばかりで…。」

それから、しばらく麻里子様の学校話しを聞く事になる。
お喋りが大好きでとても明るい人だった。

お怪我をして、ずっと部屋に閉じこもって塞ぎ込んでいるのではないかと、勝手な想像をしていた事を恥ずかしく思うくらい元気な方で、とても安心した。

不運にも不自由になってしまった足で、それでもちゃんと女学校に通い、自分の運命に負けない強い心を持っている。そんな逞しさを感じる。

誰かに似てる…。

そう、妹の亜子(あこ)に似てるんだわ。

歳もきっと同じくらい…
大きくなった亜子と重なり、嬉しくて心が温かくなる。

いつしか私も微笑みを浮かべて、麻里子様のお話しを聞いていた。

「ねぇ。良かったらお名前を教えて下さい。
私は麻里子です。今年16歳になりました。」

「えっ…と。」
ここでも名乗る事を躊躇する。

私は没落したとは言え貴族出身だから…彼女の嫌う貴族の…。
それに紀香様と親戚だと知られたら、途端に嫌われてしまいそうで怖い。

「あの…私はただの女中ですので…名乗るほどの者ではありません。」
申し訳なさで俯いてしまう。