港に大きな客船が浮かぶ。

莉子はその大きさに圧倒されて、口をあんぐりと開けてただ、下から見上げていた。

「お姉様、いよいよですね。」

妹の亜子も一緒に行きたいと自ら志願して、着いて来てくれる事になった。

亜子は目を輝かせて船を見上げている。そのワクワクとした気持ちが手に取るように分かる。

「亜子ちゃんは怖く無いの?
こんなに大きな鉄の塊が浮いているなんて…なぜ沈まないのかしら。」

莉子はその大きさに慄き緊張気味だ。

「私は未知の世界にワクワクしています。もう、何が起きても怖いもの無しですよ。」

「さすが亜子ちゃん肝が座っているわ。私なんてこの1週間、ソワソワしてあまり寝られなかったというのに…。」

亜子は先週15歳になったばかりだ。
それでも、これまで人よりも大変な経験をして来たせいか、何事にも同時無い強く逞しい精神力の持ち主となった。

莉子にとってこれほど心強い味方はいない。

「莉子、船酔いするといけないから梅干しと、飴と…」
兄の正利も仕事で着いて行く事になった。
初めての海外で不安はひとしきりだ。

「お兄様…。大丈夫ですから、もうこれ以上は持てません。」
亜子は既にうんざりしている。

ボォーボォー

大きな汽笛が鳴り響きいよいよ搭乗時間になる。

「莉子、そろそろ中に乗り込もう。」
荷物を預けに行っていた司がいつの間にか戻って来て、莉子の手を取る。

「はい。行きましょう。」

司の存在は莉子にとって、これほど心強い人はいないとまで思うくらいで、今ではその顔を見ただけで幸せを感じてしまうほどだ。

「では、お兄様、亜子ちゃん、行きましょうか。」
笑顔でみんなと客船に乗り込む。