「俺が莉子をおいて行くはずないだろう?
そんな事したら、どこぞの誰かに掻っ攫われてしまう。悪いが拒否権は無いからな、莉子が行かなきゃ俺はこの仕事は降りるつもりだ。」

突然の事で目を瞬かせる。

「私も…一緒に?」

「当たり前だろ?夫婦は一心同体なんだ。離れて良いはずがない。」

もちろん私には一度も海外の経験は無い。パスポートも無ければ英語も話せない。

「私が、付いて行って大丈夫でしょうか?足手まといになりませんか?」

「むしろ莉子が居ないと俺は安眠出来ないし、食事も喉を通らない。そしたら本当に餓死するぞ。」

「…い、行きます。」
脅され気味にイギリスに付いて行く事を承諾する。

司さんは満面の笑顔でコクンと頷く。

「よし、早く退院出来るように、莉子は3食完食して体力を付けるんだ。」

それから、とんとん拍子で話しは進んで、私の退院までには司さんが全ての準備を済ませてしまった。

退院して1週間後に出発する事になる。

行った事のない未知の世界

船で3週間もかかる長旅だ。

怖くないと言ったら嘘になる。
だけど…隣に司さんがいてくれるのならば、大丈夫。

1度も2度も諦めかけたこの命だ。その度彼に救われて、ここまで生きながらえて来た。

この広い海原に例え投げ出されようとも、彼は私の事を最後まで諦めないだろうし、私も最後まで彼から離れたく無い。