熱のせいか寝たり起きたりを繰り返して、あっという間に夕方になる。

「…今…何時だろう…。」

夢と現実を行き来して頭がぼぉーっとしている。

「今、夕方の4時過ぎです。
お目覚めになりましたか?
そろそろ麻里子様が帰って来られる時刻ですよ。」

今日一日ずっと付きっきりでお世話してくれた千代さんはこの家の長男、司様の乳母だと言う。

家業は長谷川商会という大きな会社を営んでおり、御当主が1代目として社長をしているそうだ。
その跡取りの司様は、専務という立場で日々尽力しているらしく毎晩帰りが遅いらしい。

「白湯をいかがですか?
もし、何か食べられるようでしたら果物でもむきましょうか?」

私は慣れない手厚い看病に恐縮してしまう。

「…ありがとうございます。あの…白湯を少し頂けますか?」
遠慮気味にそう言うと、千代さんはにこやかにはいと返事をして、身体を起こす手助けをしてくれる。

ほどよく温かい白湯を湯呑みに入れ渡してくれた。

「ありがとうございます。」
と、頭を下げて受け取る。

温かな白湯は身体に心に染み渡る。

「バナナはいかがですか?司様がまた買ってきてくれると朝言っていましたから、お好きなら遠慮せずにお食べ下さいね。」

「そんな…高いものを沢山いただく訳にはいけませんので。」
と、丁重に断るのに、

「遠慮しないで食べて下さい。
司様を安心させてあげてくださいませ。」
ニコニコの笑顔でバナナの皮を剥いてしまう。

「あの…では、半分だけ。後は千代さんが食べて下さい。」
と、お願いする。

「口の中のキズはどうですか?まだ痛みますか?」

千代さんはお母さんのように心配してくれる。
久しぶりに人の優しさに触れた気がして、なんだかとてもむず痒い気持ちになる。

「温かいものはそんなに痛くないので、大丈夫です。」
少しでも安心して欲しくて、強がりを言う。