司は反射的に走り出す。

莉子が行った化粧室は玄関の近くだ。彼女に何かあったのではないかと、バクバクと心臓だけが危険を知らせる。

見れば玄関先に覆面の男が何人か押し寄せ、至る所に火をつけている。
しかし、ここで捕まる訳にはいかない。

莉子を助け出さなくては!!

瞬時に隠れて化粧室までの道のりを探る。その間も煙が玄関に充満し始める。

覆面の男達が奥のホールに向かって行く姿が目に入り、司はすかさず姿勢を低くくして莉子がいるであろう化粧室の方へ走る。

何人か逃げ出して来る人々にぶつかりながらもなんとか化粧室の前に辿り着く。

「莉子、莉子、どこだ!」

「…司さん?」
莉子の声を確認して、ところ構わず中に入って煙の充満する中、声をかけて回る。

視線は煙で一寸先も見えない。
気持ちは焦る。このままここにいたら危険だと誰もが思うくらいだ。

「こ、ここです…。」
低い位置から声がして手探りで手繰り寄せる。

「良かった…大丈夫か?怪我したのか⁉︎」

司の手に触れた莉子の頬は涙で濡れているのが分かる。

「逃げ惑う人に押されて…足を挫いてしまったみたいです…。」

「とにかくここから出ないと危ない。少し痛いかもしれないが担ぐぞ。」
司は莉子を肩に担ぎ狭い化粧室を出て玄関ホールへと走る。

しかしそこは既に火の海で逃げ惑う人でごった返している。司は瞬時に判断して誰も向かおうとしない2階へと走る。