司は莉子の手を引いてダンスの輪の中に入ると、そこには先に来ていた亜子と兄の正利がいて、

「お義兄様、先程はとてもかっこよかったです。」
 と、亜子から始めて声をかけられる。

なんで返していいやらと司は照れ笑いをして返す。

「さすが我が支店長!憧れちゃいます。」
正利からも絶賛の嵐だ。

「やめてくれ、柄じゃない…。」
さすがの司もそれには困惑してしまう。

次の曲がタイミングよく流れ始めて、司と莉子は緊張気味に踊り出す。

それでも段々と楽しくなってきて、莉子も笑顔が溢れ出すから、司も笑い返してクルクルと莉子を回して気分も上がる。

いつの間にか沢山のギャラリーに囲まれて、曲が終わりを告げれば拍手喝采が巻き起こる。

「目立たない様にと思っていたのに…悪目立ちしてしまったみたいだ。莉子は大丈夫か?」
耳元にそっと囁く司の声に、ビクッと反応してしまう。

「だ、大丈夫です。」
 
いつまで経っても鳴り止まない拍手から逃れるように、再びバルコニーに莉子を誘う。

「はぁ…困ったな。これで莉子の美しさが世に知られてしまった。」

頭を抱えて悩み出す司を、他人事のようにふふっと笑う莉子が隣で、

「…風が気持ちですね。」 
と、熱った体を鎮めるように涼んでいる。

「今夜はもう、絶対離れるな。」
司が莉子の手を握り締める。

「多分、司さんが怖くて誰も寄って来ませんよ。」

司はこんなにも危機感を感じているのに、莉子はなぜだかどこ吹く風だ。
普段だったらオロオロするのは莉子の方なのに…。

「今夜の莉子は余裕だな…。」


自分自身だって何故だかはっきりは分からない。ただ、側に司がいる事で何も怖くないと思えるほど、安心してしまうのだ。

「それはそうです。司さんの側に入れば怖いものなんてありませんから。」

「そうか…それなら、別に良いか。」
素っ気なくそっぽを向いてそう言う司は、照れているようだ。

「そろそろ冷えて来たな、中に戻ろう。」
風邪を引かすのも良くないと、司は莉子の手を自ら自分の腕に絡ませて、室内へと誘う。