「到着しました。」
運転手の声で莉子はハッと我に帰る。

気付けば、本日の晩餐会の主催者でもある、岸森公爵の屋敷に到着していた。

司のエスコートで外に出る。

ロータリーには招待客の車が何台も列を成して停まっている。

まるで公園のように広い庭の中央には噴水があり、屋敷に繋がる大理石の階段が続く。

街灯がところどころを明るく照らし、遠くにはバラ園のような花畑も灯りに照らされ浮かび上がっている。

「…凄い…。」
見上げるほど大きな洋館は白く綺麗で、月明かりに照らされて、まるで異国の地に来たかのような錯覚を覚える。

あまりにも壮大なお屋敷に慄き、莉子は立ち止まり一歩を踏み出せずにいる。

「行こうか。」
司がそっと背中を押してくれて、なんとか歩き出す。
その逞しい腕に手を乗せ、エスコートされるままに階段を登る。

煌びやかな衣装を身に付けたどこかの令嬢や、通り過ぎるご婦人方がこちらに目をやり、ひそひそと何やら話す声が聞こえてくる。

何処にいても何をしていても、見目美しい司は目立ってしまい、たちまち人々の目を引く。

司はそんな事にはお構いなしで、

「転ばないように気を付けて。」
と、視線は揺るがなく莉子だけを見つめ、いつも以上に心配し過保護になっている。

「大丈夫です。」
莉子はというと、緊張でガチガチの身体をなんとか動かし、気丈にも司に笑顔を向ける。

それは生まれ持っての品の良さを垣間見せ、その佇まいに異性の目を集めてしまわないかと、司の心配はひとしおだ。

「想像以上に大きなお屋敷で、気が引けてしまいます。」

莉子がそっと打ち明けてくるから、司の庇護欲を掻き立てる。

「俺は今、この階段を出来れば莉子を抱えて駆け上りたい。そのぐらい心配している。階段を登ることだけに集中してくれ。」
そう言う司は、片手を莉子の腰に回し、もう片方は莉子の手をぎゅっと握っている状態だ。

ふふっと微笑む莉子は、いくらか肩の力が抜ける。

「そこまで心配されてたんですね。」

「階段は麻里子の事もあるから、怖いんだ。早く登り終えたい。」
それを聞き莉子もハッとして、階段を登る事だけに集中した。