今夜は特別に運転手付きの車が迎えに来る。
後部座席に2人で乗り込む。

始めての晩餐会。
上流貴族の集まりは子供の頃の憧れでもあったけれど…。今はもう既に貴族では無い莉子にとって、怖いと思ってしまうほど別世界だ。

震える手を無理矢理ぎゅっと握り締める。

「緊張してるのか?
大丈夫だ。俺が出来るだけ側にいる。」

司はその手をそっと握り、莉子の緊張が少しでも溶けるようにと言葉を探す。

「分かってはいると思うが…貴族の中には我々商人を蔑む奴もいる。不快な思いもするだろうが、全ての火の粉は俺が被る。莉子が重荷を背負う事なんて一つもないんだからな。」
そう念を押すように莉子に諭す。

「はい、でも大丈夫です。
辛い時こそ2人で分け合えたらって思うんです。司さんの痛みの半分は私が引き受けたいんです。こう見えて結構打たれ強いので、心配しないでくださいね。」

莉子の力強い言葉を聞き、司はフッと笑を浮かべる。
そして、握っていた莉子の手の甲を引き寄せ口付けをする。

莉子はドキンと心臓が跳ねて、驚いた顔で固まってしまう。

そんな事はお構いなしに司は莉子の耳元に囁く。

「2人っきりなら押し倒して、唇を奪いたいのを我慢してるんだ。これくらい許してくれ。」

莉子は移動中ずっと、真っ赤になって俯くしかなかった。