「莉子、そろそろ支度は出来ただろうか?」
司から控えめに声をかけられる。

「はい。ただ今、行きます。」
莉子は慌てて立ち上がり部屋から出る。

廊下をパタパタと早足で駆け階段へと急ぐと、踊り場で待つ司を見つける。

「すいません、お待たせしました。」
莉子は急ぎ階段を降りて、司の側へと行こうとするのに、慌てて司が階段を駆け上がって来る。

今日は司も光沢のある燕尾服を着て、誰よりも気高く美しい貴公子に見える。

だけどその高貴な衣装を気にする事も無く、いつものように一段跳びに駆け上がって来るから、莉子は思わずふふっと笑ってしまう。

「莉子、そんなに急ぐと怪我をする。」
直ぐに目の前に来た司だが、階段の一歩手前で足を止める。

段一段下で足を止める司と莉子の背の高さはいつもより近い。

少し目を開いて明らかに驚きの顔をしている。

「あの…どこか変でしょうか?」
自分の格好がよっぽど可笑しいのかと心配になり、莉子は顔が青くなるほど血の気が引く。

「いや…美しすぎて…息が止まった…。」

「えっ…?」
良かった…変では無いのねと、莉子はホッと息を吐く。

「寒くは無いか?4月とはいえ上着を羽織って行った方が良い。」
今度は突然過保護になって、司が自ら支度部屋まで行って、上着代わりのスカーフを持って来てくれた。

「ありがとうございます。」

「靴は大丈夫か?階段は気を付けて降りてくれ。」
司は懇願するようにそう言って、莉子の手を取りゆっくりと階段を降りる。