早いもので、それから1週間は走馬灯のように過ぎて、気が付けば晩餐会当日がやって来た。

莉子は朝からバタバタと昨夜届いたドレスを前に、身を清めて身だしなみを整えている。

若旦那の粋な計らいで、着付けから髪のセットお化粧まで、今日は紀伊國屋の女性従業員が2名もわざわざ足を運び、いろいろと手伝ってくれている。

いざ、ドレスに袖を通してみると、ぴったりと体型に合い寸分の狂いもない。その縫製技術と品の良さに驚き舌を巻く。

だけど当の本人は…自分には勿体無くて…着せられている感が否めなくて、お手伝いに来てくれた方に申し訳なく思ってしまう。

「時間が少なかったのにも関わらず、ここまで素敵なドレスを本当にありがとうございます。
だけど、なんだか私には勿体無くて…着慣れないせいか…大丈夫でしょうか?」

自分では鏡を見るのも怖いくらい不似合いな気がしてしまう。

「何をおっしゃいますか。
その透き通るような白肌に絹の滑らかな生地が映えて、やはりこの淡い桜色がとても似合っておりますよ。これは、沢山の殿方の目を釘付けにする事間違い無しです。」
1人の若い従業員が拳まで作って莉子を鼓舞してくれる。

「本当です。きっと綺麗すぎて、旦那様は心配でヤキモキしてしまうでしょうね。」
クスクスと年配の従業員は楽しそうに言う。

「そうでしょうか…でも、ここまで露出したお洋服は始めてなので、心元なくて…人様の前に曝け出すのがとても恥ずかしいです。」

「これは最近の流行りです。この胸元を大胆に魅せるのも西洋では当たり前なのですよ。この国は全てにおいて遅れています。女性が着飾る事は悪い事では無く、はしたない事でもありません。そんな女子の代表として、胸を張って楽しんで来て下さいね。」

2人のプロにかかればあっという間に髪は綺麗に結い上げられて、お化粧も丁寧に仕上げてくれた。

恐る恐る鏡を見れば、自分では無い別人みたいだと思うほどで、まるで魔法がかけられたような気分になる。

「さすがプロですね。まるで自分が自分では無いみたい。ありがとうございます。」
莉子の気持ちもやっと浮上して、やっと笑顔が出てくる。