夜も更けて、それぞれが自分の居場所に戻る。

莉子はせっせと後片付けをし、風呂に入り寝支度をして寝室に入る。

そこには思いがけず司が居て、
えっ?と驚き足を止める。

「ごめん…
せめて晩餐会まではと我慢はしたが…。 
もはや莉子が隣にいないと安眠出来ない身体みたいだ。」
司は苦笑いをしてそう言うから、

「私も…とても、寂しかったです…。」
ベッドに潜り込みながら、莉子も恥ずかしそうに司の側に擦り寄る。

「今日は疲れただろ。麻里子の世話も料理もありがとう。莉子にはすでに頭が上がらない。」
突然褒められて抱きしめられるから、莉子は戸惑い顔を司の胸元に埋める。

「私も…楽しかったですし、お礼を言われるような事は…何も、していません。」

「莉子に会えたから麻里子はあそこまで回復した。
…それなのに俺は莉子の兄にまで嫉妬して…麻里子と踊ってやれば良かったと後悔した。」

そんな気持ちを露とする司は初めてで、莉子は心配になってしまう。
「どうかしたんですか?」

「君達兄妹を見ていたら、罪悪感を感じたんだ…。」

きっと兄妹で踊るのが恥ずかしかっただけなのね。照れてしまって突き放してしまった事を、これほど後悔しているなんて、本当はとても優しくて温かい人。

莉子はそう思うと、司の事をもっと愛しく感じてしまう。照れ屋で感情表現が苦手な不器用なところがあるけれど、もう何度もその温かさに触れ優しさに救われている。

「大丈夫です。麻里子さんはちゃんと分かってくれています。一緒に育った兄妹なのですから、次の機会があったら是非、司さんからダンスに誘ってあげてください。」

司のそのサラサラな髪をそっと撫でてみる。

「莉子にはカッコ悪いところばかり見せている。こんな旦那で呆れているか?」

「司さんにかっこ悪いところなんてあり得ません。私にだけ…弱いところを見せてくれるところも、凄く嬉しいです。」

「そうか…それならいいが。」

司は心底ホッとする。莉子に幻滅されたらこの先きっと生きていけない。それほどまでに、彼女心が離れてしまうのが怖いと思う。

誰よりも強く有りたいと思い生きて来た司だが、彼女には絶対服従だなと自分に呆れる。そして、そんな自分をどこまでも受け入れてくれる、その懐の深さに感服する。

「ありがとう、今夜は安眠出来そうだ。」
司は莉子に優しく髪を撫ぜられて、まるで母親の腕の中のように安心して、いつの間にか意識を手放す。

大人になってから、こんなにも熟睡出来た日は無かったと思うほどだった。