そこに突然、あらぬ方向から手を引っ張られて、えっ⁉︎と驚き司から離される。

司も突然の出来事になんだ⁉︎と一瞬出遅れ、莉子を掻っ攫われる。

はぁっ⁉︎っと思っている間に、目の前に麻里子がいて、当然ながら途端に渋い顔になる。

「お兄様ってちゃんと踊れたのね。初めて踊っているところを見ました。」
悪気の無いあっけらかんとした言葉に、司は呆れる。

「お前は…兄をなんだと思ってるんだ。」

「せっかくだから一曲踊って下さいな。」
タイミングよく次の曲が流れ始め、麻里子は無理矢理司の手を取りワルツの姿勢をとる。

「俺は莉子としか踊らない。」
本当に嫌そうな顔で司が言う。

今まで妹のわがままは仕方なく聞いてきたが、踊れと言われてハイハイと踊る様な男では無い。

「お兄様、妹の最後のお願いだと思って聞いて下さい。足の怪我もお陰でこんなに良くなったんだから。兄として見届けるべきですよ。」

「莉子に感謝するんだな。俺はお前とは踊らない。」
スッと交わされて司は壁際に行ってしまう。

一筋縄ではいかないわね…
と、麻里子はふぅーとため息を付いた。

一方、莉子と正利の兄妹は仲良く踊っていた。

「お兄様とダンスを踊る日がまた来るなんて、感無量です。」

「本当だな…落ちるとこまで落ちたから、これからは上がって行くだけだ。莉子も亜子も幸せになって欲しい。それが今の僕の生きがいだ。」

正利がそう言って莉子をクルッと回す。

「私は既に幸せです。お兄様自身も幸せを見つけて欲しいです。結婚とか考えたりしないのですか?」

「亜子をお嫁に出すまでは結婚するつもはないよ。」

そう言う兄の話しを聞いて莉子は考える。
果たして亜子はこの先結婚するだろうか…。

最近亜子の話を聞いていて思う事がある。

「お兄様、亜子ちゃんなんですけど…本当は学校に行きたいようなんです。」