「久しぶりー、莉子ちゃん。会いたかったぁ。」
唐突に麻里子から抱きしめられて、笑いながら抱きしめ返す。

「お前は…相変わらず騒がしいな。頼むから莉子を困らせるなよ。俺は仕事があるからこれで行くけど、夕飯までには帰るから、妹をよろしく頼む。」

司さんから頭をポンと撫ぜられて、笑顔になる。

私なんて単純なものだ。彼に優しくされたら嬉しいし、触れられるだけで胸がキュンとなる。

何を怖がって恐縮する必要があるのだろう。
いっそ本人に聞いてしまえば、きっと気持ちが晴れるのに…
そう思いながら、司さんが仕事に戻って行くのを3人で見送った。

「相変わらず忙しい人ね。せっかく可愛い妹に久しぶりに会えたのに、素っ気なく仕事に戻るなんて…。」

麻里子さんのように、思ってる事を口に出せたらいいのに…私はそう思い彼女を改めて尊敬の眼差しで見つめる。

腰に手を当て見送る麻里子が羨ましいと思ってしまう。

「さて、莉子ちゃん。お兄様と何かあったの?
2人共どこか変よ?」
麻里子さんは振り返った途端指摘して来るから、驚いてしまう。

「そんなに…分かりやすいですか⁉︎」

「まぁ、兄は分かり難い人だけど…今日は会ってからやたらに莉子ちゃんを庇ってたし心配してたから。私の事もちょっとは心配して欲しいくらいよ。」

麻里子さんは朗らかに笑いながら言う。
彼女の歯に衣着せぬ話し方がとても好きだ。ここまで心の中が開けっぴろげな人はそういない。

清々しくて明朗で、こんな風になれたらきっと、小さな事でクヨクヨしないだろうな。

「麻里子さんが羨ましいです。そんな風にいつも思ってる事を口に出せたら良いのですが…。」
ついそう言ってしまう。

「分かった。兄に言いたい事があるのに言えないのね。兄はそれに気付いているのに聞けないんだわ。ほんとヘタレなんだから。」

そんな事を司さん相手に言えるのは、麻里子さんくらいだろう。

「ふふふ。麻里子さん気に入りました。仲良くして下さい。妹の亜子です。」

「まぁ、可愛い。莉子ちゃんとよく似てるわ。
こちらこそよろしくね。
嬉しい。私、昔から妹が欲しかったのよ。」
麻里子と亜子とでお喋りが弾む。

亜子もハッキリした性格だから、2人は直ぐに仲良くなれるだろうな。

私も嬉しくなって笑顔になる。

「莉子ちゃん、あの朴念仁には言いたい事があったらハッキリ言わないと伝わらないわよ。」

「ぼ、朴念仁だなんて…。」
麻里子の鮮烈な悪口に亜子は大笑いする。

「司お義兄様の弱みを握った気分です。」
と、嬉しそうだ。

「亜子ちゃん、司さんに失礼だわ…。」
それには一言咎めるが、亜子も麻里子さんも容赦が無い。