家に着いてまず兄が驚きの声をあげる。

「…まるで貴賓館みたいですね!!」
玄関に入るなり大きな声を出して驚く。

「元々西洋の要人を迎える為に建てたらしい。今はホテルもあるからあんまり使って無かった場所だ。」

「この玄関ホールならダンスホールとかになりそうですね。」
興奮気味に正利だ。

「森山家もこんな感じの家だったと思うが?」

かつて森山伯爵と言えば海外の要人を招いては、貿易の為に友好関係を築く為奮闘していた。貿易を生業としている長谷川家にとっては、心強い味方であり戦友のような関係だったのだ。

司自身はまだ学生だった為、招かれた事は一度もなかったが父からよく話は聞いていた。その父が、この家を建てる際、森山伯爵家のような洋館にしたいと要望したのだ。

「ああ…確かに実家に似てますね。ここ6年こういう煌びやかな世界とは、かけ離れたところにいましたから忘れていましたが…少し懐かしく思うのはそのせいですね。」

正利はホールの天井を煽り見て、大きなシャンデリアを見つめてそう言う。

「実家に以前来た事が…?」
莉子が驚き司を見上げる。

「いや、残念ながら一度も行ったことはない。ただ、父から話しを聞いただけだ。」

「そうなんですね。でも…あの家の事を知っている人がいてくれて嬉しいです。もう、今は跡形もありませんから…。」
莉子は寂しそうに昔を懐かしむ。

「森山伯爵が築いた功績は、今でも消えず言い伝えられている。それこそがお父上の生きた証ではないだろうか。」
莉子の頭を優しく撫ぜて司が励ます。

「そう…ですね。」

「そうだよ。俺が長谷川商会に入ってから、上司や重役が、僕が森山の嫡男だと知ると凄く良くし期待もてくれる。父の功績のお陰だと思っている。」

「そうなんですね。じゃあ期待に応えなきゃなりませんね。」
莉子の微笑みに真剣な顔で正利はいう。

「そうだ。だから僕は誰よりも父が恥ずかしくないように、仕事に精進しなければならないんだ。」

「そうだな。正利君にはそれぐらい期待しているし、よくやってくれてるよ。」

司がそう言って兄を褒めるから、

「僕はもっともっと勉強して、司さんに役立つ部下になりたいです。」

司と一緒に仕事が出来ることに、正利が大いなる理想を掲げているのではと少し不安になる。

「正利君、俺はそれほど良い上司では無いから。君は君らしいやり方で、仕事に邁進してくれたら良い。」
苦笑いしながらそう伝える。