今日は疲れさせたのだろう。
司は莉子の重さを先程よりも感じ、眠ったの事を確認する。

しかし…こんな体勢で眠れる訳がない…。

好きな女子を抱きながらうたた寝なんて出来る訳が無いだろう。

それに引き換え…人の気も知らないで…
莉子はやたら安心したような顔でスヤスヤと可愛く寝ている。

牛になっても知らないからな。
司はそんな憎まれ口を叩きながら莉子の寝顔を盗み見る。

その寝顔を見つめていると、こんなにも天使のように穢れない人間が、俺の腕の中にいる事を奇跡のように感じてしまう。

何がなんでも守り抜きたい。

彼女にこれ以上辛い事が起こらないように、いつも笑顔でいられる毎日を、俺の手で与えていきたい。

明日、婚姻届を出す事を伝えた。

少し早まっただろうかと自問自答するが…今しか無いと思った。まだまだ彼女の心が追いついていないのは百も承知だ。

世捨て人のような、どこか浮世離れしたところがある彼女だから、きっと夫婦とは何かも分かっていないだろうと思う。

赤ん坊はコウノトリが運んで来ると本当に思っているかもしれない。

司は苦笑いして、莉子をソファにそっと下ろす。

額をそっとコツンと合わせ、どうか一生、莉子が俺の側に居ますようにと願いを込める。

気付けばあれほど吹き荒れていた風が止み、外は少し晴れ間が出ていた。

明日こそは出かけられるだろう。

だけど、今日みたいなこんな日がたまにはあっても良いなと思った。

誰にも気兼ねせず、何事にも囚われずただ2人きり。彼女はただ俺に笑いかけ、俺の為に食事を作ってくれる。

幸せとは何も無い日常にこそあるものなんだと、司は今実感した。