それからしばらく忙しい日が続き、莉子の妹の説得も学任せになってしまっていた。

横浜行きを3日後に控えた晩、珍しく学が俺の帰りを待っていた。

「お帰り兄さん、待ってたよ。」

「どうした、莉子の妹の説得は出来たのか?」

「旭の決意は硬すぎて…それは並行線のままなんだけど…。」
じゃあ、何の用だ?と言う顔で学を見やる。

「明日、神社の境内で催しがあるらしくて、藤屋の女郎達も数人、舞踊を披露するらしい。
旭も参加するから莉子ちゃんを連れて行こうと思ってるんだ。」

「莉子にはその事を伝えたのか?」

「ああさっき伝えたら、会いたいと言っていた。」

そうだろうなと予想は付いたが、妹と再会したところで本人が足を洗う気が無いのなら、話しは並行線になってしまう…。

莉子の心境が気になり出す。

「それは何時からだ?」

「18時には舞台に立つから、多分花街から出るのは17時くらいだと思う。そのタイミングで神社に行けば会えるかもしれない。」

「て、事は…妹の方には伝えて無いのか?」

「言ったら絶対会ってくれない。あの強情さはなかなかだから…。」
さすがの学もお手上げ状態のようだ。

「分かった、俺も一緒に行く。明日莉子にも伝えておく。」

「よろしく。莉子ちゃんは兄さんの事を気にしてたからきっと安心するよ。」

莉子との時間は本当に少なく、朝の忙しい時間に朝食を共にして、身支度を手伝ってもらうだけのほんのひとときだ。

当初は俺に対してビクビクしていた莉子が、今ではネクタイの結び方も上手になって、可愛い笑顔を見せてくれるようになった。

このほんのひとときが、今の俺にとって癒しであり、至福の時間でもあるが、欲を言えばもっと彼女と触れ合いたいし、距離を詰めたい。

だけど千代がいる手前、素っ気ない態度を取るしかなく、たわいない話しで終わってしまうのが現状だ。

横浜に行けば3日は休みを確保したから、全ての時間を彼女との時間に当てたいと思っている。