「楽しかったか?」
ビヤホールをどう思ったのか聞いてみる。

「働いている女給さんが凄いと思いました。」
思いがけない回答に目を見張る。

「そんな所を見ていたのか。」
感心しながら話を聞くと、

「重たいビール瓶を6個もまとめて持っていたんです。私には絶対出来ません。」
と、言ってくるから、

「莉子があんな所で働く事は一生無いから、そんな事を心配するな。」
と笑って伝える。

「でも、ちょっとやって見たい気がします。」

「駄目だ。危な過ぎて見ていられない。」
何を言い出すんだと言う勢いで否定する。

俺の婚約者としての自覚が無いのか?と目で訴えると、ふふふっと可愛く笑うから、その笑顔につられて笑い返すが、心の騒つきは半端なく心拍が逆撫でるように脈を打つ。

「…ごめんなさい。
あそこでは私は役に立ちそうも無いので、司様の側が良いです…。」
莉子が消えそうな声で呟くから、俺はぎゅっと抱きしめて安堵した。

「もう少し警戒心を持ってくれ、男はみんな狼だと思っていた方が身の為だ。」
俺がそう忠告すると俺を見上げて瞬きをするから、
しばらく言葉を待っていると、

「それは…司様も…ですか?」
と聞いてくる。狼の意味をどう捉えているのか分からないが…少しの間の後、

「まぁ…俺も等しく男だからな…。」
と、曖昧な返事を返しておいた。