抱き寄せられて司の腕の中、緊張と戸惑いとよく分からない気持ちに支配されて、莉子は自分自身の感情が分からず、身動きを取る事も出来ずにしばらくじっとしているしかなかった。

それでも、髪を優しく撫ぜられて幾らか気持ちが落ち着いて来た頃、

「あ、あの……し、心臓が口から出そうです…。」
そう言ってどうにか離れようと試みる。

「それは困るな。」
司がフッと笑い腕を緩めてくれてホッとするのも束の間、離れ際、額に頬に唇に…そっと口付けされて、心拍数は急上昇する。

「つ、司様…。」
触れられたところが熱くて、真っ赤になっているだろう顔が恥ずかしくて、莉子は両手で顔を覆う。

その手にさえも口付けを落とし、やっと司が離してくれた。

「気を付けろ。君の婚約者は意外と嫉妬深い。ありとあらゆる者に嫉妬する。」
司はポンポンと莉子の頭を撫ぜて、苦笑いして車をやっと走らせる。

しばらく莉子は固まって、身体から熱が冷めるのを待つしかなかった。



「何が食べたい?洋食、和食…中華もあるが。」
お馴染みの商店街に戻って来て、司は車を停めて莉子に問う。

今の衝動的な行為で、一歩も二歩も後退しただろうと思うが、愛でる事はやめられない。むしろ溢れ出した想いは止めようが無く、自分でも制御不可能だ。

司は、そう思う自分自身に苦笑いする。