「まずは、旅行カバンが欲しいな。
日用品だったりは向こうで買えば良いが、とりあえずら2、3日分の衣服と必需品を入れられるくらいのカバンを探そう。」

横浜に行く時に、莉子の荷物を入れるカバンを買ってくれるようだ。

莉子としては風呂敷があれば充分なのだが…司がこの先も必要な物だからと譲らない。

「洋服も3着はいるだろう。
向こうで着物類は揃えればいいとして、他に欲しい物があったら遠慮なく買ってくれればいい。」

そんな風に言われても、莉子には何をどう買ったら良いか分からないから、麻里子の言いなりにあれこれと、着せ替え人形のように洋服を合わせられている。

「白も綺麗だけど、こっちの赤のチェックも可愛い。」
麻里子のテンションはさっきから上がりっぱなしだ。

「少しは莉子の意見を聞けよ。お前が着るんじゃないんだから…。」

呆れながら、それでも2人の後をついて来てくれる司はやっぱり、言葉とは裏腹に優しい人だなと莉子は微笑む。

「莉子、笑ってないでどれが良いかちょっとは意思表示しろ。このままだと、勝手に麻里子に決められるぞ。」

「私…流行りとかよく分からないですし…皆さんがお勧めの物で構いません。」

莉子はすでに沢山の洋服を見せられて、何が合うのか合わないのか…さっぱり分からなくなっていた。

「兄様は、どっちが良いと思う?」
麻里子が白のワンピースと、赤白チェックのワンピースを莉子に合わせて司に見せる。

「難しいな…両方可愛い。」

可愛い…⁉︎
司からそんな言葉が出てくるなんて…
思わず麻里子と莉子は顔を見合わせて驚く。

そんな事には同時ず、司本人は腕を組んで真剣に考え始める。

白のワンピースは莉子の清楚で淑やかな雰囲気に良く合っている。透き通るような白い肌がより綺麗に魅了的に見える。

ただ…これでは…
他の男の目に止まってしまうのでは無いか⁉︎

一抹の不安を感じるが、俺さえ彼女の側を離れなければ問題無いと思い止まる。

一方、チェックの赤と白のワンピース…
これはこれで華やかに見えて悪く無い。莉子の優しげな笑顔がとても引き立つだろう。 

とどのつまり、どんな服も似合っている。

「両方買おう。」
深く考えても結局選べきれない司の答えだった。

「えっ⁉︎」
びっくりしたのは莉子本人で…

「司様⁉︎本当に…そんなに沢山は頂けません。洋服は着慣れませんし…きっと私には着こなせません。」

慌てて止めるのに…
「これから来慣れれば良い。着物より着やすいし楽だから、絶対気に入るはずだ。」

店員に指示を出し、さっさと会計をしてしまった。

どうしようと戸惑う莉子に、麻里子が小声で伝えてくる。
「気にしなくて良いのよ。お兄様は莉子さんに喜んで欲しくて買ってるんだから。喜んで貢がせれば良いの。どうせお兄様のお給料の使い道なんて、難しい書物くらいしかないんだから。」

それでも……
それでも、大切な財産は自分の為に使って欲しいと莉子は思う。

「次に行こう。後、もう何着か買うべきだ。」

会計から戻って来た司がそう言うから、

「大丈夫です。2着あれば充分です…大切に着させて頂きます。ありがとうございます。」
慌てて莉子はお礼を述べて、これ以上の散財を止める。

「お兄様、ついでに私の服も買って下さらない?」
麻里子が気にする事も無く、目を輝かせておねだりをしている。

「仕方ないな…お前は1着だけだぞ。
既に先月、父上に何着も買って貰ったんだろ?」

ペロッと舌を出して笑う麻里子が可愛くて、仲の良い兄妹が微笑ましくて、莉子もつられて笑顔になる。

「莉子さん、あそこのお店に行ってみましょ。」
麻里子は嬉しそうに莉子の腕に手を回して、引っ張って歩き出す。

何だか懐かしい…
莉子は遠い記憶に、妹と行った縁日を思い出した。