「花街は…煌びやかで、まるで縁日みたいに賑やかだったよ…。」

言葉について出たのは、俺自身が見た感想で…
それが果たして莉子の質問に合っているのかと言葉を止める。

「…司様から…良い匂いがします…これが…花街の香りですか?」
何も知らない莉子は純粋に、清い心でそう聞いて来る。

「…悪いな。風呂に入る手間を省いた…臭いよな。」

俺は抱きしめていた手を緩め、腕の中の莉子を見下ろす。

首を小さく横に振り、俯いている可愛いつむじが見えて、気付かれないようにそっと息を吸う。

莉子の香りは石鹸の良い匂いだ。

それだけで生き返ったような気持ちになる。

「藤屋は…どのような場所でしたか?」

「花街のど真ん中に位置して、1番大きなお屋敷だった。赤提灯に照らされて、入り口には門番が2人…。
店に入ると2階に上がり、長い廊下の1番奥の12畳ほど部屋に通された。」

今夜目にした全てを、出来るだけ私情を入れずに淡々と話して聞かせる。

亜子が旭と呼ばれていた事、舞を舞ってお酒を注いでくれた事…最後に手紙とかんざしを渡して帰って来たと伝えた。

「…学様は?
ご一緒に帰って来られなかったのですか?」

「学は、亜子ちゃんを説得すると…酒も結構入ってたし…。」

「そこは…泊まることも出来るのですか?」

「…そうだな。酔いが醒めたら帰って来るだろう。」
言葉を濁す訳では無いが…
莉子額何をどこまで理解しているのか…手探り状態だ。

しかも今、同じ布団の中で暖を取っている。
この行為でさえ、やましい気持ちは無いが…警戒されたら傷付くな…と、思う。

若干の私情を挟みながら、莉子の反応に神経を尖らせる。
「…教えてくださってありがとうございました…。」
莉子がそう言って、俺の腕から逃れようとする。

「部屋に戻るのか…?送って行こう。」
急に離れた温もりを寂しく感じながら、それでも無理強いは出来ないと手を離す。

「独りで大丈夫です…お疲れでしょう。おやすみ下さいませ。」

莉子は頭を下げてスーッと部屋を出て行ってしまった。

ああ、気持ちがこんな状態で…俺は今夜眠れるだろうか…。

結局、悶々と明け方近くまで眠れず、空が白む頃にやっと意識を手放した。