自宅に到着したのは深夜12時を回っていた。

運転手の鈴木に鍵を借り裏の勝手口から家へ入る。
疲れたな…慣れない場所はやはり肩が凝った。

花街特有の匂いも鼻をつくが、今から風呂も面倒だと思い、手足と顔だけ洗ってついでに歯磨きもして、寝巻きに着替え自室に入る。

布団の中には湯たんぽが入っていて暖かい。
このまま寝てしまいたいが、どうにも頭が冴えて眠れそうも無い。

すると、小さく足音が聞こえてくる。
誰かが厠に行くのだろうか?と、耳を澄ましていると、俺の部屋の前でピタッと音が止まる。

声をかけるのを戸惑っているのだろうか?
しばらく様子を伺うが、また足音がして去って行く。

俺はもしや、と思い布団から這い出て、部屋の灯りを付けて襖を開ける。
「誰だ?」
小さく声をかけると足音が止まり、またこちらに近づいて来る気配を感じる。

「夜分遅くに…申し訳けありません。」
暗がりに行灯の灯り一つ、あまり見えないが紛れもなく莉子の声だった。

こんな夜更けまで寝れずに俺の帰りを待っていたのだろう。

「良いから、こんなところにいたら風邪を引く。」
冷たい廊下にいつまでもいては身体が冷えてしまうと、部屋へ引っ張り込み半ば強引に布団の中に足を入れさせる。

俺も布団の中に足を入れ、毛布を引っ張り出して2人で包み込むようにして被る。

触れたつま先が氷のように冷たい。

「ずっと寝ないで帰りを待っていたのか?」
莉子を暖めながら、出来るだけ怖がらせないようにそっと抱きしめる。

「目が冴えてしまって…なかなか眠れなかったんです。
ご、ごめんなさい…お疲れですよね。
帰って来た音を聞いて…居ても立っても居られなくて…。」

戸惑いながらも腕の中、逃げずにジッとしている莉子に愛おしさが溢れる。

「あ、あの…亜子は…どうでしたか?」
恐る恐る聞いて来る莉子にどう説明しようかと、しばし考え言葉を選ぶ。