食事が終わる段階で振袖新造がお酒の酌をしに回り始める。そして、俺の横に莉子の妹が寄って来る。

「お酌をさせてくりゃんしゃんせ。」
白く塗られた手が伸びてお猪口に酒を注ぐ。

「ありがとう。君は…亜子殿か?」
小声で話しかけてみると、ビクッと肩を揺らして驚いた顔をして手を止め俺を見入る。

「君のお姉さんに頼まれて、手紙を届けに来たんだ。渡せる時間を作って欲しいんだが。」
そう伝えると、明らかに目が泳いで困惑しているように見える。

「…後でお部屋に呼んでおくんなまし…。」
小声でそう言って来る。

気持ちは今すぐ帰りたいが…
莉子に託された物と手紙を渡さない限り、今夜の任務は終わらない。

「分かった…。」
と告げて酒を飲む。

「兄さん、何なら僕が部屋を取るから兄さんは話しが終わったら先に帰っていいよ。」
横に座る学がそう小声で言ってくるから、邪な気持ちが無いか⁉︎と怪訝な顔を向ける。

「莉子ちゃんの妹に手を出す訳ないだろ?
その方が話しがし易いと思っただけだよ。」

「そうか…分かった。」

その後、若旦那の贔屓の花魁がやって来て、座敷はより煌びやかで明るい雰囲気となる。

「こちらのお方は、若様とどういう仲なんでありんすか?」
夕顔が若旦那に寄り添い聞いている。

「今日、初めて会ったんだよ。弟の学君とは数日前に知り合ったんだけど、何でも旭に会いたいって事だから今宵の宴に呼んだんだ。」

「まぁ、旭の知り合いでありんすか?」
旭がこちらにサッと目線を流してくる。

「いえ、彼女に会うのは初めてです。知り合いに手紙を届けて欲しいと頼まれまして探していたんです。」

「そういう事なんだ。昔の知り合いかなんかだと思っていたよ。」
若旦那が納得したように頷く。

しばらく、たわいもない話をして酒を飲み交わし、近いうちに仕事の方でも会う約束をした。

「じゃあ、そろそろ部屋をお願いしようか。
積もる話しもあるだろうし僕らは遠慮するよ。」

頃合いを見て、気を遣ったのか若旦那が言ってくる。

「お気遣いありがとうございます。
では、今夜の宴はこちらで全て払わせて頂きますので、ごゆっくりして行って下さい。」

俺はそう伝えお開きになる。

夕霧と若旦那は「じゃあまた。」寄り添い部屋を出て行った。

2人残った振袖新造の1人に金を包み渡し席を外してもらう。