(司side)

夕方18時半丁度、
学と共に鈴木の運転する車で花街に向かう。

15分ほどで赤門に到着すると、まだ呉服屋の若旦那は来ていないようだった。

司は、赤門側に合った団子屋でみたらし団子を買う。

「それ、莉子ちゃんに?」
学はそんな兄を物珍しそうに見る。

「俺が甘いものを買ったらいけないか?」
開き直ったように俺が言う。

「兄さんって、本当は甘いものあんまり食べないのに、偉いね。良い旦那になるよ。」

お前に言われたくない…とひと睨みして、手土産を運転手の鈴木に預け無言で赤門へ足を進める。

「お前も花街で金使うならせめて働いて稼げ。」
そう言って日頃の行いを咎める。

学が連日花街に通っていたのは莉子のためだ。

別に贔屓の女郎がいる訳でも無いが…
花街のすいも甘いもある世界で、いくつかの女郎に会いその人生を聞けば情が湧く。そしてまた、会いにいかなければならないと衝動に駆られる。

学としては、少しでも彼女達の慰めになれたらと思い足繁く通っているのだ。

「まぁ、卒業したら足は洗うつもりだから、心配しなくても大丈夫だよ。」
学は兄の言う事を素直に聞いて、その場逃れの返事をする。

そんな弟をため息混じりに、司は見やる。

「すいません、お待たせ致しました。長谷川様。」
そう声をかけながら、遊び人風情の男が人懐こい笑顔で足早に近付いて来る。

「今晩は、紀伊國屋の若旦那。
今夜はご招待ありがとうございます。」
学もにこやかに話しかける。

「こちらが、兄の司です。」

「初めまして。長谷川 司と申します。
今回は急に無理を言って申し訳けありません。よろしくお願い致します。」

司は頭を下げて礼を言う。

「こちらこそ、お噂は兼ねがね伺っておりましたが、これ程までに美男子とは。
紀伊國屋のせがれ、伊口慎之介と申します。どうぞお見知り置き下さいませ。」

司にとって、顔の事を言われるのは褒められていたとて、決して嬉しいものでは無い。

見た目でしか判断されない事ばかりで、実はほとほと嫌気がさしているほどだから、苦笑いでそれを受け流がす。

お互い挨拶が済み、赤門を3人で潜り抜ける。