妹の亜子とは8歳の時に別れてから一度も会っていない。せめて姉だと分かる物を渡したいと、莉子は思う。

「司様、ちょっと待っていて下さいますか?
亜子に渡してもらいたいものがあります。」

莉子は小走りで廊下を走り、自室へ戻って大切にしていた物を持ってバタバタとまた司の元へ戻る。

そんな莉子の事を司は心配し、廊下を前から歩いて近付いて来てくれる。

「そんなに走るな…。」

ハァーハァーと息を切らす莉子を心配して、背中を優しく撫ぜる。

「ごめんなさい。あの…これ、亜子に渡して下さい。」

差し出された手の中で、大切にハンカチで包まれている物をそっと受け取り中を見る。
「かんざし?」

「亜子と色違いのとんぼ玉のかんざしです。
私は青で妹は赤でした…。これを亜子に。」

「分かった。でも、いいのか大切な物なんだろ。」

ここに持って来ているほど、肩身離さず大切にしていた物の筈だ。よっぽどの思い出があるのではと司は思う。

「いいんです。思い出は心の中にありますから、
亜子の側にせめて、私の思いだけでも寄り添ってあげたいんです。」

「分かった。必ず手紙と一緒に渡してくる。」

「ありがとうございます。」
と一礼する莉子の頭を優しく撫ぜて、司はまた仕事場へと踵を返す。

「では、行って来る。見送りはいいから、身体を暖めてくれ。」

司の思いやりに触れ、莉子の心は暖かくなった。