「♪〜雪やこんこ あられやこんこ
   降っても降って まだ降り止まぬ
   犬は喜び庭駆け回り 
   猫はこたつで丸くなる〜♪」

近付かなければ聞こえないほどの声で、彼女が歌を歌っている。 

…そして傍には大きな秋田犬の番犬が俺を警戒して、まるで彼女を守るように威嚇してくる。

足を止め近付く事を躊躇う。
彼女の可愛い歌声をもう少しだけ聴いていたいと思ってしまう。

「どうしたの…リキ?」
犬の威嚇の声を不思議に思った彼女が手を止め、俺の方に顔を向ける。

「…司様⁉︎」
目を見開いて驚いた顔で見つめてくる。

「…なぜ、こんなところに…?」

「それは俺のセリフだ。
何をやってるんだこんな寒空に、風邪でも引いたら大変だ。」

犬が足元でワンワンと吠え始める。

そんな事は構わず彼女に近付き、まだ干されたままのシーツを乱雑に取り込み籠に入れ、犬を宥めている彼女の手を取り家の中へと引っ張り入れる。

「あ、ありがとうございます。」
縁側に押し入れて一番近い俺の部屋に連れて行き、手を温めるため炭を焚べる。

冷えて赤くなってしまった彼女の手を両手で包み温める。

「あの…お仕事は?」
午後の3時過ぎに俺が家にいる事を不思議に思っているのだろう。

「そんな事より、なぜいつもみんなが嫌がる仕事を率先してやろうとするんだ?」

「どうしてそれを…?」

「全部千代から聞いている。なぜ?」

「あの…横浜で1人で家事をする事になるので…その修行と言うか…練習です。」
口を引き結び強い目線で見てくる。

この目をする時は絶対意思を曲げない時だ。
数ヶ月それでも一緒に過ごした中で、彼女の癖は見抜いている。

内心そんな強情なとこさえ、気を許してもらえたみたいで嬉しく思う自分がいる。

フーッと深いため息吐き、
「悪いが君の夫となる男は結構厄介な男だ。
こんなに手が真っ赤になるまで家事をするなら、女中を雇う事になり、君に何もさせないぞ。
だから、ちゃんと自分自身を労り大事にしてくれ。」

そう言って、ハーハーと冷たい彼女の小さな手に息を吹きかける。
されるがままにしばらく固まっていたが、恥ずかしくなったのか真っ赤になって俯いてしまう。

そんな初心なところが堪らなく可愛いのだが…。

「莉子、実は…今夜、妹さんに会う事になった。学の知り合いが彼女の出るお座敷に招いてくれるらしい。
俺が行くのが条件だから、行って君の手紙を渡してくる。」

「それは本当ですか⁉︎
良かった…どうぞ、よろしくお願いします。」
顔をパッと上げて、珍しく彼女が感情を言葉にする。

「嬉しい。…私も出来れば会いたいんですが…花街に女子の身で行く事は出来ませんよね…。」

「気持ちは分かるが…。
莉子に何かあったらいけない。一緒には連れて行けない。」

「お帰りを、待っています。」