「お疲れ様です。お戻りが早いですね。」
運転手の鈴木が驚く。

商談が決まり、いつもなら丁寧に説明するところを、後は担当者に任せての15分で切り上げて来た。

「今から一度家に戻って欲しい。」

「分かりました。…何か忘れ物ですか?」
滅多に家に戻らない俺がそんな事を言いだしたからか、鈴木が不思議に思っている。

「莉子に…妹さんの事を話しておきたいんだ。」

ああ、なるほど、と言う顔で急ぎ家へと方向転換をしてくれた。

例え10分でも5分でも…一目だけでも会いたい。

「ただいま。莉子はどこにいる?」
帰って早々、玄関に迎え入れてくれた千代に聞く。

「莉子様でしたら、裏庭で洗濯物を取り込んでいらっしゃるかと…。」

「なぜこの寒空でそんな事をしているんだ。女中に任せておけば良いのに。」
俺は心配になって急ぎ裏庭に行く。

ここ数日振り続けた雪がやっと落ち着いたばかりの、底冷えするような寒さだ。

彼女は大事な婚約者なのだから、日々のんびりと自由気ままに過ごしてくれたら良いのに、いつだって気が付けばどこかで女中の手伝いをしている。

何度いい聴かせた事か…

女中には十分な給金を支払っているのだから、仕事であれば少しくらいの寒さは耐えられるだろう。

それなのに彼女は人が嫌がる仕事ほど、率先して手伝っていると千代が言う。これでは、彼女にそれに似合う対価を払わなくてはならなくなる。
 
給金なんて払ったら、それこそ自分は女中なんだと彼女は勘違いしてしまう。

真綿に包むように大事にしたいのに、自らそれを跳ね除けてしまうのか…。

急いで裏庭に来て見れば、雪も新雪同様に積もったままだ。ブーツで歩いてもくるぶしの上程まで深い。

不安に駆られながら彼女の姿を探す。

すると、物干し竿の近くでせっせと洗濯物を籠に取り込む彼女を見つける。

声をかけようと足早に近付くと…