「とりあえず、腹減ったから何か食ってくるわ」 

「え?八神君、ちょっと待って!」

すると、何の前触れもなく私を置いて二階へと向かおうとする彼を慌てて追いかけ、辿り着いた先は店舗内の一角にある小規模なフードコート。

完全に八神君の都合に振り回されている状況を悔しく思いつつ、今更腹を立ててもしょうがないと。

無の境地に徹することにしようと決めた私は、言われた通り席を確保して、彼の帰りを待った。



「飲み物適当に選んだけど、オレンジジュースでいい?」

「え?……あ、うん。ありがとう」

数分後。
遠慮して何もいらないと言ったから、てっきり自分の分しか買ってこなかったのかと思いきや。

ちゃっかり私の分も買ってきてくれたことに軽い感動を覚え、差し出された飲み物を躊躇しながら笑顔で受け取った。

「あんたも食べたかったら、食べれば?」

しかも、熱々の山盛りポテトまで分けてくれるという。

結果的に奢ってくれた形となり、危うく心がぐらつきそうになるのを、すんでのところで堪えた。


「そういえば、八神君って白浜さんと仲良いの?というか、彼女を置いてきて大丈夫だったの?」

ひとまず、こうして彼とゆっくり話をする時間が出来たので、私はここぞとばかりにこれまでの疑問をぶつけてみることにした。

「別に平気だろ。今まで向こうが一方的に絡んできて、今日もあまりにもしつこかったから、一回だけ相手するって話になったんだよ。その前に、お茶したいからってあの店に連れて来られた」


おそらく、彼の言う“相手する”とは不健全な遊びのことを指しているのだろう。

相変わらず彼らしい最低な返答に、私は呆れてものが言えない。