それから、お言葉に甘えてどのクレーンゲームにするか選んでいると、ふと右奥のガラスケースに飾られたカラフルなクマ達が目に止まった。

赤ちゃんと同じくらいの大きさの鮮やかなパステルカラーがとても印象的で、首に巻かれている大きなリボンが更に可愛らしさを強調している。

自室にも人形がいくつか飾られているけど、これ程大きなものはなく。
もしあれをベッド脇に飾ることが出来れば、より部屋が映えて見える気がして、期待に胸が膨らんできた。


「八神君、これはどう?」

何はともあれ、操作するのは彼なので、恐る恐る尋ねてみると、八神君はガラスケースの中にあるクマをじっと眺めながら暫くその場で考え込んだ。

「……まあ、この大きさならいけるか……」

そして、ポツリとそう呟いた後、早速カードを差し込んでスタートボタンを押すと、軽快な音楽と共にアームがパステルグリーンのクマ目掛けて突き進む。

それから、所定の位置にピタリと止まると、八神君は今度は横からクマの配置を確認し、掴むボタンを押した。

その一部終始を瞬きせずに眺めていると、アームの先が見事タグに引っ掛かり、軽々とクマが持ち上げられていく。


「凄い!一発じゃん!」

まだゴールには辿り着いていないけど、確信を得た私は、歓喜の声をあげて尊敬の眼差しを彼に向けた。


その次の瞬間。


「……あ」  

重みに耐えきれず、落とし口を囲うパーテションの真上にクマがぽとりと落下する。

しかも、そのまま上手く安定してしまい、後一歩及ばずな結果となってしまったことに私はガクリと肩を落とした。


すると、その直後。

八神君は機械を思いっきり横から蹴り付け、その衝撃でクマがぐらつき、そのまま落とし口の中へと落下していく。


「ほらよ」

そして、悪びれた様子もなくパステルグリーンのクマを取り出すと、平然とした様子で呆気に取られている私の前に差し出してきた。

「……え?いや、ちょっと……。こんなやり方で取られても全然嬉しくないんですけど?」

クレーンゲーム機の端には、でかでかと”絶対にゲーム機を叩いたり、揺らさないでください”という注意書きが貼られているというのに。

それを無視し、さも当然のように不正を働かせて取ったものを笑顔で受け取れるはずもなく。眉間に皺を寄せて猛抗議した。

「相変わらず煩い女だな。いるの?いらねーの?」

けど、やはり八神君にはまるで効果はなく。

その上、究極の選択を迫られ、私はそこで押し黙ってしまう。


「……それじゃあ、有り難く頂きます」

それから、色々と自問自答を繰り返した結果。

取られたクマに罪はないという結論に至り、大人しくそれを受け取ることにした。