八神君は手に持っていたゲームカードを機械に差し込むと、慣れた手つきで操作をし、スタートと同時に流れてきたのは昔流行ったポップス曲。

そのリズムに合わせて太鼓を叩くという、なんともシンプルなゲームであり、「やさしい」モードを選択したので初心者でも楽しめる。


「これは面白いね」

私はようやくゲームの良さを実感することが出来、終始笑顔で棒を振り続けた。


「そうか?単調過ぎて、もう飽きたんだけど」

その一方で、八神君は無表情のまま淡々と太鼓を叩き続け、私とだいぶ温度差があるけど、ゲームに夢中でそんなことは全く気にならない。


結果は持ち前のリズム感のおかげか。
初心者にしてはそこまで悪くなく、次の挑戦曲もそこそこ良い結果だったので、今度は思い切って「ふつう」モードを選択してみた。


……けど、それがいけなかった。


「やさしい」と「ふつう」の差は思っていた以上に大きく。

音楽が始まった途端太鼓マークが怒涛のように押し寄せてきて、開始僅か数秒で私は挑戦することを諦めた。



「やっぱり、あんたゲーム向いてないな」

「ふつう」レベルに打ちのめされ、一気にモチベーションが下がる中。

そんな私を面白おかしく弄る八神君は、余裕の達人レベル。

またもや圧倒的な実力差を見せつけられ、仕方ないと分かっていても、やっぱり凄く悔しい。


そして、何よりも悔しいこと。


それはシューティングゲームにしろ、太鼓のゲームにしろ、どんなに難しいレベルでも難なくこなして高得点を叩き出す彼が格好いいと。
不本意にも、自然とそう思わされてしまったことが一番悔しい。


ダメだ。
これは、完全に雰囲気にのまれてしまっている。

ここに来た理由は、彼の身勝手な憂さ晴らしでしかないのに。

しっかりしろ、私!