「お願い八神君。スマホ返して。早く戻らなきゃ……じゃないと、私……」
暫く黙って彼の後をくっ付いていたけど、歩を進めるにつれ膨れ上がる嫉妬と恐怖と焦りに押し潰され、気付けば自然と涙がこぼれ落ちていた。
すると、八神君は急に立ち止まり、無表情でこちらの方を振り返る。
「あんた見てるとイラつくわー」
そして、何を言われるのかと思いきや。
突然非難の言葉を浴びせられ、容赦ない彼の仕打ちに今度は怒りの感情まで加わってきた。
「そうやって人に振り回されて、ただ泣いて、自分がない奴は嫌いなんだよ」
その上、全てにおいて痛い所を突いてきて、反論したくても何も言い返せず、悔しくて歯を食いしばる。
「別にいいでしょ!私がどうしようと八神君には関係ないじゃない!イラつくなら勝手にイラつけば!?ていうか、今回のは八神君のせいだから!兎に角、これ以上あなたの都合で私達を掻き乱さないでっ!!」
だから、ここはもう開き直るしかないと。
そう吹っ切れた途端、長い間溜め込んでいた蟠りが一気に溢れ、怒りと共に勢いよく外に吐き出した。
「そうだな。この程度で掻き乱されて、疑心暗鬼になるアンタらのことなんか、くだらな過ぎてどうでもいい。だから、俺に付き合え」
けど、八神君には全く響いていないどころか。
悪びれもなく、清々しい程の自己中具合に、今度は言葉を失う。
理屈も何も通じない。
この人に何を言っても無駄だ。
短いやり取りで、そう確信した私。
スマホを返してくれる気配もないし、挙げ句の果てに何も言わない私を放っておいて、再びさっさと歩き出していく始末。
このまま彼を無視して亜陽君の所に戻るという選択肢もあるけど、やっぱり他人の手に自分のスマホがあるのは嫌だ。
まして、相手が八神君だと尚更。
ここは大人しく彼の要求を呑んで、早くスマホを取り戻してから亜陽君に電話しよう。
そう決断した私は、全てを諦めたように深いため息を吐くと、小走りで八神君の後を追ったのだった。