「……そろそろ行くか」
とりあえず、一服するかしないかは歩きながら考えることにして。
俺は資料室を後にし、教室へと引き返す。
そして、廊下の突き当たりを曲がった直後、ある人物と鉢会い、足の動きが止まる。
「……あ」
それは向こうも同じようで、俺の姿を見た途端、表情が歪み、あからさまに視線を逸らしてきた。
「ど、どうも」
この前は何の躊躇いもなく怒鳴り込んできたくせに、まるで別人のように恥じらう姿が何とも滑稽で、俺は思わず乾いた笑みが零れる。
「随分とそっけないな。あれだけキスしたのに、もう少し打ち解けてもいいんじゃねえの?」
それから、更に追い打ちをかけてやろうと、俺は距離を詰めて倉科の頬に手を伸ばす。
「やめてください。揶揄うのもいい加減にして」
すると、即座にその手を払いのけ、怒りがこもった目を向けられた。
これまた、随分とご立腹ですこと。
……まあ、仕方ないか。
事実だし。
俺は否定することなく鼻で笑うと、それ以上何も言わずに、倉科の横を通り過ぎた。