それから、気持ちを入れ替えて生徒会室の扉を開けた途端、既に来ていた亜陽君が私の姿を見るや否や血相を変えてこちらに駆け寄ってきた。

「美月、大丈夫なの!?午後一の授業体調不良で遅刻したって聞いたけど?」  

しかも、クラスが離れている亜陽君の耳にも話が届いていたとは思いもよらず。
かなり分が悪い状況に私は言い淀む。
  
「あ……う、うん。もう平気だよ。ごめんね、心配かけて」

とりあえず、笑顔で答えてみたものの、やはりどこかぎこちなさが残ってしまい、口元が引き攣る。

もう彼の前では嘘をつきたくないのに、こんな結果を招いてしまう自分がほとほと嫌で。

改めて憤りを感じていると、不意に亜陽君の指が伸び、私の髪に優しく触れてきた。

「いや、俺の方こそ気付けなくてごめん。もしかして、あの時無理させちゃったかな?美月が可愛い過ぎてキス止められなかったから……」

まるで捨てられた子犬のような目で言われた“可愛い”という言葉がこそばゆくて、これでもかと注がれる彼の愛情に幸せを感じるけど、良心はかなり痛む。

だから、そんな亜陽君の顔を見ていられなくなり、照れを装って私は視線を足下に落とした。


「……あの。お熱いのは良いんですが、出来れば他所でやって頂けますか?」

すると、いつの間にそこにいたのか。
脇から突然聞こえた声に驚き振り向くと、げんなりした表情でこちらを眺めていた河原木と目が合い、私は慌てて亜陽君から離れた。

しかし、恥じらう私とは裏腹に、亜陽君は相変わらず何事も無かった様に平然としていて、彼の神経の太さにはある意味感心してしまう。