それから、私は亜陽君と家の前で別れ、玄関扉を開く。

「美月おかえり。デートはどうだった?」

そして、真っ先にリビングへ向かうと、そこには牛革のソファーに座りながらゆっくりお茶を飲む母親が私を迎える。

「今日もとても良かったよ。亜陽君とお揃いのストラップも買ったんだ。あと、亜陽君が前から気になっていたお店を予約して行ったら凄く喜んでくれたの」

「そう。それは何よりだわ」

母親の質問に対して喜んで答えたら、さほど関心を示すことなく。
小さく微笑んだ後、素っ気ない返答が来て会話はそこで呆気なく終了した。

けど、これは毎度の事なので、私も特に気に留めることなく今度は自分の部屋へと向かう。


これが我が家のルール。

亜陽君とデートした後は、こうして真っ先に家族に報告すること。

順調なら何も言われることはなく、少しでも不穏な空気になってしまった場合は即家族会議が開かれる。

と言っても、大体は私が謝る方向で話が落ち着くので、この話し合いに何の意味があるのかは前から疑問に感じていた。

でも、温厚な亜陽君と喧嘩することなんてこれまで数える程しかなく、高校生になってからは一回もしていないので、そんな事は滅多に起こらない。

だから、私は家族を心配させないように、些細なことでも報告しているし、例えこれが義務的だとしても、亜陽君の話が出来るのであれば苦にはならない。


このまま彼と安定した関係が続けば、いずれは亜陽君のお嫁さんになれる。

それがいつ頃になるかは分からないけど、そんな日が早く来てくれることを夢見て、デートをした日の夜は決まって神様にお祈りしていた。


きっと、亜陽君も私と同じ気持ちなはず。

今では昔に比べて沢山“可愛い”や“愛してる”の言葉を躊躇いもなく言ってくれるし、スキンシップも増えてきた。

だから、これまで私に対する彼の気持ちを疑ったことなんて一度もないし、心の底から彼を信じている。


そして、ゆくゆくはこの家を支える要となること。

それが、私の進むべき道であり、使命だと。

気付けば自ずとそう思うようになり、今日に至る。