誰も居ない静かな空間に、まるで蜜を吸うよな音が部屋中に響き渡る。

その度に体が反応してしまい、変な声が漏れ出てしまうけど、その声が好きだと以前亜陽君に言われたので、私は我慢せず彼が与える快感を素直に受け入れることにした。



「それじゃあね」

「うん。また後で」

こうして、私達の甘い時間は終わり、亜陽君は椅子から立ち上がると、満足そうに微笑んでから資料室を後にした。

一緒に出てもいいのだけど、そうすると怪しまれるかもしれないので、ここは別々に出ようと。

この場所を使い始めるようになってから、私が出した提案を亜陽君は忠実に守ってくれている。


今日も亜陽君のキス、凄かったな……。

そんなことをぼんやりと考えながら、私は亜陽君が立ち去った後の出入口を呆然と眺める。

これまでのように、触れるだけの優しいキスで終わることは、あの日を境になくなった。

その代わり、体の芯から蕩けるような深くて、濃厚なキスが容赦なく降り掛かってくる。

しかも、それは日に日に激しさを増していき、こうして付いていくのがやっとな私は、キスが終わった後も暫く動けなくなってしまうのだ。


とりあえず、私も早く部屋を出ないと。

そうこうしていると、もうすぐ予鈴の鳴る時間が差し迫ってきていて、私は崩れた制服を正そうと、慌ててワイシャツのボタンに手をかける。


「あー……、やっと終わったのか?」

「きゃあっ!」

すると、誰も居ないはずの部屋の隅から突然男性の声が聞こえてきて、度肝を抜かされた私は思わず悲鳴をあげてしまった。

「や、や、八神君!?いつからそこに!?」

勢いよく振り返ると、そこにはげんなりとした表情の八神君が資料棚の裏から出てきて、予期せぬ人物に私は全身震え出す。

「ったく、人の寝床に入ってきたかと思えば、随分楽しことしてんじゃん、副会長?」

そして、まるで挑発するような嫌味を口にした後、八神君は弧を描く唇から八重歯をチラつかせ、こちらの方へとにじり寄ってきた。